大規模修繕マンション工事の適切な周期と時期の目安は?

【分譲マンションの大規模修繕工事の目安はいつくらい?】

建物をいつまでも長持ちさせたいのであれば、マンションの定期的な修繕や改修を行い、機能や性能を維持して向上させていく必要があります。
一般的に、大規模修繕を行う適切な時期は「12年」が経過した頃だといわれています。マンションの状態に応じた適切な改修計画を立案するためには、マンションの劣化状態を把握する正確な診断が必要です。マンションでは第一回目の大規模修繕を控えた10年目が最初の診断適齢期となります。
大規模修繕工事の内容は、工事を重ねた回数と、劣化具合や修繕具合によって大きく変わってきます。
一回目の大規模修繕工事は外壁を中心に行われることがほとんどですが、二回目以降は外壁だけにとどまらず、玄関ドアやアルミサッシなどの、建物の内側部位が劣化している場合が多く、そういった部分も含めて修繕工事を行います。そのため二回目の工事は一回目よりも広範囲になるケースが多くなります。その後は、築25年〜30年以上経過した頃が適切といわれている三回目の工事では、建物ほぼ全域を対象とした大規模修繕工事が行われる場合が多くなります。また、その時代ごとに合わせた設備や部材、耐震補強工事などの工事も併せて行われます。計画的な大規模修繕が実施されない場合は、劣化に伴い費用も増大する恐れがありますので、適切な診断を実施し、費用負担の軽減もきちんと視野にいれた計画が必要になってきます。

 

大規模修繕の時期ブログ_1

【部分別の修繕時期の目安は?】

以下でご紹介する各項目においては、更新や修繕実施の目安の時期に工事が実施されたことを前提として記載しています。
※目安とされる時期に工事を実施していない場合は、それらの検討も必要となりますのでご注意ください。

・築年:4~6年目
・メンテナンスポイント:鉄部塗装
・修繕箇所:鉄部
劣化の兆候が見え始めている部位のメンテナンス時期です。
はじめての大規模修繕工事に向けて、長期修繕計画の確認と見直しをしましょう。

・築年:7~10年目
・メンテナンスポイント:小修繕
・修繕箇所:鉄部、屋根、屋上、給水ポンプ、雨水排水ポンプ
はじめての大規模修繕工事に向けて、修繕委員会の立ち上げなどの準備期間です。建物全体を見渡し、建物診断の受診をすることをおすすめします。

・築年:11~15年目
・メンテナンスポイント:第1回大規模修繕工事(屋上防水・電気設備)、インターホン等
・修繕箇所:鉄部、外壁、屋根、屋上、電灯設備、廊下・階段、バルコニー、インターホン、TVアンテナ等、消火栓等、エントランス、集会室等、機械式駐車場、付属施設、車道・歩道・植栽等
経年によるあらゆる部分の劣化と、修繕工事の際にかかる費用をなるべく抑えるためにも、この時期に第一回目の大規模修繕工事を実施することをおすすめします。

・築年:16~20年目
・メンテナンスポイント:鉄部塗装・屋上防水、自火報関連、機械式駐車場、給排水ポンプ等
・修繕箇所:鉄部、屋根、屋上、火災感知器等、機械式駐車場、給水ポンプ、雨水排水ポンプ
劣化の兆候が見え始めている部位のメンテナンス時期です。直近の設備点検等の報告内容を確認し、設備診断の受診をおすすめします。

・築年:21~25年目
・メンテナンスポイント:第2回大規模修繕工事(給水管交換)
・修繕箇所:鉄部、外壁、屋根、屋上、電灯設備、廊下・階段、バルコニー、インターホン、TVアンテナ等、消火栓等、エレベーター、エントランス、集会室等、機械式駐車場、付属施設、車道・歩道・植栽等、給水管、雑排水管、給水ポンプ、雨水排水ポンプ
経年による劣化と、今後の修繕にかかる費用を抑えるためにも、この時期に第二回目の大規模修繕工事を実施することをおすすめします。また、修繕工事実施後は長期修繕計画を見直して、大規模修繕工事の実績を反映させましょう。

・築年:26~30年目
・メンテナンスポイント:エレベーター交換
・修繕箇所:インターホン、エレベーター
直近の設備点検等の報告内容を確認しましょう。

・築年:31~40年目
・メンテナンスポイント:第三回大規模修繕工事(玄関ドア交換、サッシ交換、手摺交換)、排水管更新
・修繕箇所:鉄部、外壁、屋根、屋上、電灯設備、廊下・階段、バルコニー、TVアンテナ等、消火栓等、エントランス、集会室等、機械式駐車場、付属施設、車道・歩道・植栽等、玄関ドア、サッシ、手摺、雑排水管
※国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」より
経年による劣化と、今後の修繕にかかる費用を抑えるためにも、この時期に第三回目の大規模修繕工事を実施することをおすすめしています。その際には建物の機能/性能/材質面の更新を含む改良工事の検討が必要になります。

【大規模修繕を行うまでの流れは?】

マンションの大規模修繕を行うまでの流れは、以下の通りです。

①修繕委員会の結成

まずは、大規模修繕を計画的に進めるために「修繕委員会」を設立する必要があります。修繕委員会とは、管理会社や外部のコンサルティング会社との窓口になって、大規模修繕を主導する委員会で、一般的にはマンションの住民の中から選ばれます。修繕委員会のメンバーに選ばれた住民は、業者との窓口になるので発言力強くなるという大きなメリットがありますので、住民の貴重な意見や取りまとめを任されます。

②コンサル会社の選定

修繕委員会のメンバーが決まったら、次に修繕工事の流れを検討します。この時、場合によってコンサルティング会社を選定し、依頼します。コンサルティング会社はプロの目線で修繕の流れや業者の選定、手抜きをしていないかの確認などをしてくれます。一戸3万円~5万円のコンサルティング費用は掛かってしまいますが、委託すればスムーズかつ確実に大規模修繕を進められます。繕委員会だけで大規模修繕を進めていくことが不安な場合はコンサル会社に委託するのも一つの方法です。

③施工業者の選定

次に施工業者の選定です。コンサルティング会社に業者選定も委託した場合、直接業者を選ぶ必要はありません。コンサルティング会社へ委託しない場合は、業界紙を使って公募をかけ業者を選定しましょう。ただし、時期によっては建築ラッシュで公募が集まらなかったり、費用が高くなる場合もあります。たとえば東京オリンピックが開催された時期は建築ラッシュとなり、業界全体が人手不足となっています。業者を選定する際は、時間に余裕をもって募集しましょう。

④説明会の実施

施工業者と工事内容を確認した後、居住者向けに住民説明会を開く必要があります。この説明会では工事のスケジュールや工事内容、期間中の注意点等について詳しく説明します。たとえば外壁修繕中はベランダが使用できなくなることもあり、修繕工事中は日常生活への支障が少なからず発生する可能性があるので、説明会には必ず参加するようにしましょう。説明会に出席すれば大規模修繕に関する疑問点や不安を解消でき、住民側の意見をしっかりと伝えることもできます。

⑤工事準備

住民の皆さんの同意が得られたら、いよいよ修繕工事の準備に入ります。具体的には作業員の休憩所、仮設トイレ、資材倉庫、足場の設置などを行います。たとえば足場はマンションの外周に設置され、さらに透過性のあるメッシュシートで覆われるのが一般的です。そのほか、現場事務所も設置され、机やパソコンなどの備品が設置されます。ここまでの事前準備が終わると、いよいよ修繕工事の開始です。

【説明会の際に住民側が確認しておくべきポイントは?】

①防犯対策:足場が組まれるため不審者が部屋に入り込みやすくなります。対策面についてきちんと確認しましょう。
②安全対策:特に小さなお子様がいる場合、足場は怪我の原因になりかねません。安全対策についてきちんと確認しましょう。
③ベランダの使用について:バルコニー内の塗装や防水工事が行われる場合もあります。洗濯の際の注意事項や物を置いてよいのかなど、確認が必要です。
④部屋の明るさについて:飛散防止のために貼る外部のシートによって部屋が暗くなるのかなど確認しましょう。
⑤家に滞在しておく必要があるか:基本的には外出しても問題ないとされている大規模修繕工事ですが、玄関枠の塗装などは在宅していないと実施することができません。外出しても問題ないのかをきちんと確認しましょう。

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【大規模修繕工事の周期延伸は可能?】

大規模修繕の一般的な時期を把握したところで、「修繕工事の周期を延伸することはできるのか?」「延伸するとどうなるのか?」が気になる点になりますよね。たとえ修繕時期を迎えたからといって、必要の無い部分を修繕することには正当性や合理性はあまりありませんし、経済的な面で余計に負担を負うだけです。しかし、修繕工事が必要なのに周期を延伸するのは問題です。このようなやり方は短期的に見て金銭的なメリットがあるかもしれませんが、長期的な視点で見ると資産価値を著しく下げるだけでなく、外壁の崩落などといった思わぬ事故で住民の生活の安全面を守れない他、周囲への悪影響を及ぼしかねません。
しかし、近年では株式会社東急コミュニティーが大規模修繕工事の周期を12年から18年まで伸ばす取り組みを行っているように、常識を変えようとする会社の動きも目立っています。

【マンションの大規模修繕工事で起こり得るトラブルと防き方は?】

マンションの大規模修繕を行う際は、さまざまなトラブルが起こり得ます。
住民側も、工事を主催する側も、大規模修繕についてきちんと知識を持っておくことでトラブルを防げる場合があります。
起こり得るそれぞれのトラブルがどのようにして起きるのか、どのように防げばよいのかを詳しくご紹介していきます。

①修繕費用がかさむ

住民側が毎月支払わなければならない「修繕積立金」とは別に、一時金としてまとまった額の支払いを求められることがあります。金額はマンション毎に異なりますが、場合によっては100万円を超えるといった場合も少なくありません。「そんな大金を今すぐ簡単には支払えない」という方は多いでしょう。こういったトラブルを避けるためにマンションの購入前にチェックしておきたいのが、「長期修繕計画」です。上記で説明したとおり、長期修繕計画にきちんと「修繕項目」が網羅されているかどうかを確認する必要があります。大規模な修繕工事内容が抜けてしまっている場合だと、大規模修繕を行なう段階になって予算が足りず、追加費用を徴収される可能性が高いのです。

②いつの間にか大規模修繕工事直前になっていた

初めての大規模修繕を迎える管理組合の場合だと特に、トラブルや困りごとが発生するケースが多くあります。マンションは所有者全員の大切な資産ですので、なるべくトラブルを起こさず、スムーズに大規模修繕を進めたいものですよね。大規模修繕は管理会社側が「そろそろ工事の時期です」とアドバイスをしてくれるケースが多いですが、すぐに進む話しでもないので先送りしてしまいがちで、気づいたらいつの間にか大規模修繕工事が半年後に迫っていた、、ということも起こり得ます。施工会社などのパートナーの選定や建物の調査、設計など、準備には最低でも2年程度はかかります。直前になって慌てていると、管理会社側から『こちらに全て任せてもらえたら間に合います』と言われることがありますが、実際問題誠実な管理会社であれば大丈夫ですが、稀に工事内容や費用が不透明なまま工事が進み、トラブルになってしまうケースもあります。長期修繕計画で予定されている大規模修繕の時期まで時間がない場合、1~3年程度なら着工を遅らせても大きな問題にはなりませんので注意が必要です。

③工事の際の騒音がうるさくて迷惑している

マンションの大規模修繕では、足場の組み立て・解体やタイルの張り替え、高圧洗浄機の利用などで、さまざまな騒音が発生します。いずれも大規模修繕に必要なことなので仕方がありませんが、小さなお子様がいる場合などは特に、長きにわたって騒音を気にしなければならない住民にとっては慢性的に大きなストレスを感じてしまいます。マンションの住民側は、防音対策をしっかりする、テレビの音を普段より少し大きめにするなどの工夫をして、工事の音が気になりにくいような環境を構築するように心掛けなければなりません。施工会社が行える唯一の対策としては、マンション住民に対して事前にきちんと説明会を開くことです。騒音が発生する期間と騒音の程度について、詳しく説明する必要があります。

④修繕委員会で意見がまとまらない

大規模修繕は検討を開始した段階から工事完了までに少なくとも数年はかかりますので、理事の任期よりも長期にわたって行われるのが一般的です。日常の管理組合の業務と重なると理事の負担が大きくなってしまうため、管理組合とは別に必要となる大切な組織が修繕委員会です。しかし、この修繕委員会内で意見が合わない、揉めてしまうといった事態になると、大規模修繕の計画がなかなか進みません。大規模修繕工事をどのような方式にするのか、コンサルティングを依頼するのかなどで揉める場合も多々あります。その場合は、建物や大規模修繕に詳しい建築士事務所や大規模修繕のコンサルティング会社などの第三者から意見をもらうのも方法のひとつです。大規模修繕に限らず、普段から相談先を決めておくのも良いかもしれませんね。

⑤修繕委員会に建築の知識をもつ人間がいない。

建築の専門知識をもつ担当者がいれば安心。というイメージがありますが、他の委員の意見を全く聞かずに施工会社の選定などを勝手に進めてしまい、トラブルや揉め事に繋がるケースも多数起きています。
専門知識の有無にこだわる必要はないので、年代や性別、家族構成などさまざま違う立場の人からバランスよく意見を選出することが大切です。近隣のマンションや、同じ管理会社に管理を委託しているマンションの管理組合などと情報交換するのもおすすめです。

⑥工事完了後の費用についてのトラブルが起こってしまった

予定よりも工期が延びてしまったり、修繕箇所の劣化具合が当初の診断よりも酷かった場合などは、あとあと追加費用が発生する可能性も少なくはありません。また、工事完了時に施工箇所に不具合が見つかるという場合も考えられます。
大規模修繕でのトラブルを防ぐうえで最も大切なのは、「管理組合が主体的に取り組む」ことです。管理会社や施工会社に任せっきりにせず、進捗状況を定期的に確認することが非常に大切です。

⑦工事の仕上がりがイメージとは違った

外壁塗装した後の色や質感が、イメージとは違う仕上がりになってしまったというケースも少なくはありません。こういったトラブルを防ぐには、管理組合が施工会社と連携して、できるだけ塗料やタイルなどのサンプルを多く見ておくことが重要です。またサンプルを確認する際は、室内ではなく外に出て太陽光の下で色や質感をきちんと確認しましょう。暗い室内と明るい外では、素材の見え方が大幅に変わるため、注意が必要です。

【マンションの購入・売却のタイミングはいつ頃がおすすめ?】

マンションを購入する、または売却するならば大規模修繕工事の前が良いのか、修繕工事が済んだ後が良いのかという問題についてですが、これは当然ながら、その人自身の考え方によって左右されます。
購入者側の立場からすると、「大規模修繕工事完了直後の物件であれば、綺麗に修繕されているのでしばらくは大規模修繕の心配がない」という大きなメリットがあります。
しかしそれに伴い、価格は高めの設定になっている可能性があることがデメリットです。売却する側の立場になると、「修繕後であれば付加価値が付いて高く売れる」という最大のメリットがあります。大規模修繕工事直前である場合は、購入者側から値引きを要求される要素になりやすいデメリットが考えられるので、修繕後の新築同様の状態の建物を引き継ぐのであれば、所有していた人が積み立てた修繕積立金で性能を新築同様の状態まで戻して、次の購入者に引き渡すことができる、大規模修繕直後の売買が当然だといえます。

【まとめ】

いかがだったでしょうか。
本記事では「大規模修繕工事の適切な周期と時期の目安は?」について詳しく解説してきました。
マンションを長く綺麗に維持するためには非常に大切とされる大規模修繕工事ですが、解説した時期を目安にメンテナンスすることの重要さが伝わったかと思います。とはいえ、所有しているビルの現状を把握しながら、適切な時期に適切な工事内容を実施することで建物の資産価値を維持し、今後の向上にも繋がります。
マンションの大規模修繕工事で起こり得るトラブルも複数ありますが、必要なポイントを押さえつつ、よりよくスムーズに修繕工事が行われるようにしっかりと知識をつけておきたいですね。是非参考にしていただければと思います。