大規模修繕工事を行うにあたって、一体どれくらいの費用がかかるものなのでしょうか。本記事では、「マンションの大規模修繕工事の費用はいくらかかるのか?」に焦点をあてて解説していきたいと思います。
【大規模修繕の費用の目安はいくらくらい?】
大規模修繕工事にかかる費用は、マンションの規模や構造によってさまざまで、大きく異なります。一般的な目安として国土交通省が公表している大規模修繕の平均金額を元にご紹介させていただくと、大規模修繕に必要な費用は「一戸あたり100万円前後かかる」とされています。国土交通省が平成29年に調査した結果によると、マンションの大規模修繕の一戸あたりにかかった費用で最も多かった価格は75万円~100万円(回答全体の30.6%)、次いで100万円~125万円(同24.7%)、さらに50万円~75万円(同13.8%)という結果でした。これらの調査結果から、マンションの大規模修繕工事を行う際は、最も多いケースで一回の大規模修繕で一戸あたりおおよそ100万円前後の費用がかかるということになります。総戸数が100戸のマンションで考えると、大規模修繕にかかる費用は約1億円程の価格となる計算ですので、非常に多額の費用が必要であることが分かります。
【マンションの大規模修繕はなぜ必要なのか?】
そもそも、マンションの大規模修繕工事はなぜ必要とされているのでしょうか?その理由には大きく2点挙げられます。
①時間の経過とともに建物や設備が劣化するから
大規模修繕が必要な理由の1つとしては、建物や設備は時間の経過とともに劣化してしまうからです。購入時は新築のマンションだったとしても、築年数が経過するごとに次第にさまざまな部分が汚れたり、傷んでくる問題はどうしても避けられません。たとえば、外壁や屋根は風雨や紫外線にさらされるため、乾燥によるひび割れやタイルの剥がれなどが発生します。こうした劣化部分を定期的にメンテナンスすることが、大規模修繕の大きな目的とされています。劣化により修繕が必要になりやすい箇所には、下記のようなものが挙げられます。
・共有部分:外壁、屋根、バルコニー、手すりなど鉄部分、給排水配管(共用管)、エレベーター、共用廊下・階段、エントランス、オートロックやインターホン、宅配ボックス、機械式駐車場、フェンスなど
・共有部分のうち専用使用部分:玄関扉(外側)、サッシおよび窓枠、バルコニーおよびルーフバルコニーの床や手すり、玄関ポーチ、1階の専用庭、専用使用駐車場、トランクルームなど
専有部分である玄関扉、給排水・ガス給湯配管の専有部分にあたる箇所は、入居者側が修繕しなければならないので要注意です。
②建物の資産価値を守るため
大規模修繕が必要な理由の2点目は、マンションの建物の資産価値を維持するためです。
長年大規模修繕工事を行わないままマンションの建物の劣化を放置してしまうと、雨漏りや設備故障によって生活に支障をきたしたり、見た目やイメージが悪くなってしまう場合があります。また、故障や不具合だけでなく、マンションの設備が古くなり、それに伴って住民の皆さんが生活に不便さを感じることにも繋がります。こうしてマンションの暮らしやすさが損なわれると、価値もどんどん下がり、将来、売却や賃貸として貸し出したいと思ったときには家賃を下げざるを得なくなってしまいます。このようなことを防ぐためにも、大規模修繕はマンションにとって非常に大切とされている工事なのです。そのため、特に中古マンションの売買時には、大規模修繕の有無や内容、修繕計画などの修繕履歴や将来の予定を、重要事項説明で購入者へ告知することが義務付けられています。修繕がしっかり行われているかどうかは、マンション購入を決める大切な要素の一つになりますので、物件を検討する際には忘れずチェックすることをおすすめしています。
【大規模修繕の積立金について】
分譲マンションなどを購入した際、管理費と共に毎月積み立てる必要があるのが、「修繕積立金」です。 入居者にとって大規模修繕の積立金は月々の負担になってしまいますが、マンションの共用部分の修繕や維持管理、資産価値の維持のため、非常に大きな役割を果たしています。以下からは、大規模修繕積立金の役割や、管理費との違い、相場や平均額について解説していきます。
・修繕積立金とは?
「修繕積立金」とは住まいの修繕・維持管理のための入居者が負担する積立金のことです。
修繕積立金とは、分譲マンションの外壁・屋根・エントランス・エレベーターなどの共用部分を中心に修繕工事や維持管理を行うため、入居者である全員が負担する積立金のことを指します。マンションの共用部分は、入居者だけに限らず、行き来する全員が日常的に使用する部分です。それぞれの入居者が使用する居室などの専用部分については、マンション管理組合による修繕工事の対象ではありません。
「修繕積立金」は近い将来の2年、3年先の修繕工事のためだけではなく、10年、20年、30年先の長期的なスパンを見据え、長期にわたって皆さんの住まいを安心安全に維持するために積み立てられます。こういった修繕・維持管理に必要な費用を一括で集めてしまうと、入居者の金銭的負担がかなり大きくなってしまうので、マンション管理会社は毎月少額ずつ長期に渡って費用を集めて積み立てていくのです。管理費や住宅ローンと同様で、物件購入後も入居者が支払い続ける必要のある費用の一つです。
・修繕積立金の金額は「長期修繕計画」に基づく
修繕積立金の金額は、一般的に国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」に基づき、分譲事業者が策定する「長期修繕計画」によって決定されます。
長期修繕計画作成ガイドラインでは、修繕積立金の計算方法を原則「均等積立方式」として、長期修繕計画の期間中の修繕積立金の金額が一定になるように求めています。たとえば、向こう30年の長期修繕計画を作成する際には、修繕工事費や設備交換工事費など、工事期間に予定される工事費用の総額を見積り、月々の金額に均して修繕積立金の額を決定します。
分譲マンションによっては、「段階積立方式」を採用するケースもあります。「段階積立方式」とは、あらかじめ期間を決めて、月々の修繕積立金を段階的に増やす計算方式のことです。物件に入居した当初は、他のマンションよりも修繕積立金の負担が少ない場合が多いですが、築年数とともに金額も上がっていき、入居者の負担も増えていく方式です。
なお、長期修繕計画は一度作成したら終わりというわけではありませんので、建物の状態や、それに伴って必要な工事の見直し、収支の状況などにより定期的に見直すことが非常に大切です。
【修繕積立金の目安は?】
一般的な修繕積立金の相場は、一ヶ月あたり6,944円~10,416円だとされています。大規模修繕には一戸あたり100万円~150万円ほど必要とされていますので、100万円~150万円÷144か月(12か月×12年)と計算すると、一ヶ月あたり6,944円~10,416円がおおよその相場であるという計算になります。ただし、マンションによって修繕積立金の金額は変動します。
たとえば、総戸数が多いほど修繕積立金を負担する世帯が増えるので、一戸当たりの負担は軽くなります。そのほか築年数や共用設備のグレードなども積立金の額に関係します。修繕積立金の金額を比べると、中古マンションより新築マンションのほうが安いことが多いでしょう。新築マンションは当然新しいため、大規模修繕の必要性があまりありません。そのため、積立金の額が安く設定されています。しかし、最初は金額が安くても築年数の経過とともに値上がりするケースがほとんど。新築時の修繕積立金の安さだけで物件を選ぶことのないようにしましょう。
【修繕積立金の代表的な使い道は?】
修繕積立金には、大きく分けて三つの使い道があります。
①定期的に行われる大規模修繕工事にあてる
おおよそ10年~15年を一区切りとして、定期的に行われる大規模修繕工事が挙げられます。建物のメンテナンスや保守は日常的に行われているかと思いますが、どれだけ気をつけていても、年月が経つうちに建物にはダメージが蓄積します。大規模修繕工事の実施によって、入居者の快適な生活を維持し、マンションの資産価値維持にも繋がります。
②マンションの共用施設の改善にあてる
マンションの共用部分の改善や改修を行う際にも、「修繕積立金」の中から工事費用が拠出されます。たとえば、共用部分に傷みがあるわけではなくても、駐輪場や駐車場の増設や移設、集合ポストの取り替え、増設など、入居者の生活の質の向上のために工事の必要性が認められるケースを指します。日々の清掃など、共用部分のそこまで大掛かりではない工事や維持管理については、修繕積立金ではなく「管理費」から費用が拠出されます。「修繕積立金」と「管理費」の違いについても以下で解説します。
③災害や事故が起きた際の修繕工事にあてる
定期的な修繕工事のほかにも、台風や地震、津波などといったどうしても避けられない自然災害により、マンションに被害が生じるケースがあります。こうした突発的な修繕工事においても、毎月の修繕積立金の中から工事費用の一部を使うことになります。
【修繕積立金を滞納するとどうなる?】
マンションの修繕積立金を滞納してしまった場合にはどんなことが起こるのでしょうか。 修繕積立金は、管理費とまとめて支払うケースが多いので、修繕積立金だけではなく管理費も同様に支払いが滞ってしまう場合がほとんどかと思います。修繕積立金を滞納するとどうなってしまうのかについて、以下で詳しく解説していきます。
・財産の差し押さえとなる可能性がある
マンションの修繕積立金や管理費の支払いを長期にわたって滞納してしまうと、最悪の場合管理組合などから競売を言い渡される可能性があります。(※競売とは、債権者が債権の回収を目的に、滞納者の不動産を裁判所を通して強制的に売却し、そこで得た代金を回収することです。)競売は債権者側にとっても最後の手段であり、管理費等の滞納が原因で競売までされてしまうケースは多くありませんでしたが、近頃では滞納問題が増加している傾向にあり、滞納解消のために実際に競売という方法をとる管理組合も増えてきているのです。
・信用情報に影響することはないのでご安心を
一方で、マンションの修繕積立金や管理費などを滞納したり支払わなかったとしても、信用情報に影響が及ぶことはありません。理由としては、金融機関等を通して支払っているものではないからです。ただし、たとえ信用情報には影響がなくても、管理組合との関係の悪化や、社会的信頼の低下などには少なからず影響が出てくるかもしれません。信用情報に影響がないから滞納するといったようなことはしないようにし、支払いが難しいような場合は、早めに管理会社を通して、管理組合に相談することをおすすめします。
【管理費等が払えない時の対応はどうしたらいい?】
管理費などが今すぐ支払えないからといって管理会社や管理組合などからの通達を放置してしまうと、強固な手段を取られる可能性が高いです。そこで、マンションの管理費等の支払いが厳しく、滞りがちになってしまった場合の対応策について以下でご紹介します。
①管理会社や理事会に相談をする
まず、料金が支払えないと判断した時点で最も優先で行うべき行動は、管理会社や理事会への報告・相談です。滞納の理由や今後の返済に関する予定をきちんと伝える必要があります。管理会社の理解を得ることができれば、猶予を持ってもらえる場合があるかもしれません。
②支払期日の延期・分割払いを交渉する
すでにある程度まとまった金額分を滞納してしまったという場合は、支払期日延期や分割払いの交渉をしてみましょう。支払いをするという人の申し出は承知してもらえる可能性が高いです。(これは理事会などの判断になるかもしれません)きちんとした返済計画や返済の旨を書面にした上で、誠意をもって相談することが大前提です。
③支払いの見通しが立たない場合は売却を検討する必要がある
管理費などには、「支払えないから踏み倒す」という手段は通用しません。何らかの方法で一時的に支払いできたとしても、管理費が原因で金銭的に生活が苦しくなってしまっては意味がないですし、今後も改善が見込めず、再度の滞納を重ねてしまう状況であれば、マンションの売却を検討しなければなりません。滞納がかさみ、遅延損害金が膨れ上がる前に一度生活を見直してみましょう。
以上、マンションの購入費用と、毎月納めなければならない修繕積立金の相場、滞納時の対処法などについて解説してきました。修繕積立金や管理費の滞納が続いてしまうと、最悪の場合マンションの管理組合などから裁判所に申し立てられ、資産を差し押さえられる可能性があります。支払いが難しい場合は、管理会社や理事会に早めに相談することが大切です。管理会社からの連絡を放置したり、無視をし続けることがなによりやってはいけない行為です。必ず早めの報告と対応を心がけ、関係がこじれることのないようにしてください。
【大規模修繕工事中の生活はどうなる?】
大規模修繕工事中は、マンションの居住者の日常生活に少なからず影響が及びます。たとえば、大規模修繕工事では建物全体に足場を設置し、外壁やベランダの工事を行います。そのため、作業のために自宅のベランダに人の出入りがあり、足場の保護シートがあるため、洗濯物を外に干せなくなります。また、作業時間中は、臭いや粉じんが室内に入るのを防ぐため、窓を開けられなくなったりすることもあります。ほかにも、下記のようなことを求められる場合があります。
・エアコンの室外機を移動させる
・ベランダに出している物は全て室内にしまう
・網戸を外しておく
・BSアンテナやCSアンテナなどは取り外して室内で保管する
・駐車場の車を移動させておく
工事期間中は、一定のストレスや不便さは仕方ありませんが、マンションのスムーズな工事のためには入居者側の理解と協力が必要不可欠です。難しい点がある場合は、大規模修繕委員会や管理組合へ相談してみましょう。
【大規模修繕工事についてよくある質問】
Q.大規模修繕工事の準備は、どのくらい前から計画するものですか?
A.マンションの規模によってさまざま異なりますが、たとえば100戸程度のマンションの場合であれば、通常調査診断から着工まで10ヶ月~1年ほどかかると思っていてください。先に長期修繕計画の立案が必要な場合は、さらに2ヶ月ほど期間が長くなりますので、お早めにご相談いただくことをおすすめします。
Q.まもなく築10年を迎えるマンションなのですが、いつ頃大規模修繕工事が必要でしょうか?
A.大規模修繕工事は、一般的に築12年のタイミングで一回目の工事を実施し、その後も12年ごとに行っていくことが推奨されています。築10年のマンションでしたら近々大規模修繕工事が必要になりますので、一度ご相談ください。
Q.大規模修繕工事の際は、外に洗濯物を干せますか?
A.ベランダ・バルコニーの工事をする期間は、使用を制限させていただく場合があります。洗濯物が干せないなどの制限をさせていただく期間については、事前にお知らせしますのでしばらくの間ご協力をお願いいたします。
Q.大規模修繕工事中は、駐車場や駐輪場は使えますか?
A.マンションによって、または工事の内容によっては、駐車場や駐輪場の使用を制限させていただくケースがあります。その場合は、管理組合様と話し合いのうえ代替の駐車場・駐輪場を確保するなどの対応をいたします。
Q.工事の際に足場を設置すると、そこから空き巣に入られるリスクはありませんか?
A.万全な防犯対策を行っております。施工中も入居者の皆様の安心を守ることができるように、あらゆるリスクを想定したうえで大規模修繕にあたっております。安心してご相談ください。
【まとめ】
いかがだったでしょうか。
本記事では「マンションの大規模修繕工事の費用はいくらかかるのか?」をはじめとした、大規模修繕工事に関する気になることをまとめて解説してきました。
大規模修繕は、約12年~18年に一度の頻度で行われることが多く、同じマンションに20年~50年、はたまたそれ以上住み続けた場合には、最低でも三度の工事を経験する計算になります。新築マンションの場合は当面大規模修繕はありませんが、修繕積立金の額があまり少ないと大規模修繕工事の際に必要な金額が不足してしまう場合もあるので、修繕積立金の額がどのように変わっていく計画なのか、きちんと確認し、計画を立てることをおすすめします。また、特に中古マンションの購入を考えている場合は、現在検討しているマンションがどのような状態で、次の大規模改修工事の予定がいつ頃になっているのか、大規模修繕用に積み立てられている積立金の額は十分に足りているのかなど、大規模修繕工事に関係する項目について、しっかりと確認することを忘れないようにしてください。大規模修繕の際は、工事期間中のトラブルや工事完了後に補修箇所から雨漏りやタイルの剥がれが見つかるなど、さまざまな理由で工事後のトラブルが起こることもあり得ます。
大規模修繕を検討されている方は、是非参考にしていただければと思います。