東京都立川市のマンション管理実態と管理士が果たすべき役割〜現状・課題・適正化への道筋〜

はじめに

東京都立川市では、多くの市民がマンションに居住しており、マンションは市民生活の基盤となっています。しかしながら、近年、建物の老朽化と居住者の高齢化という、いわゆる「二つの老い」が進行しています。この状況が続けば、管理組合の機能低下などを招き、適切な管理が行き届かないマンションが増加する可能性があります。管理不全に陥ったマンションは、その建物だけでなく、周辺の生活環境にも深刻な影響を及ぼしかねません。

このような背景から、立川市では市民が安心して暮らし続けられる住環境の形成を目指し、長期的な視点に立ったマンション管理の適正化を推進するため、「立川市マンション管理適正化推進計画」を策定しました。この計画は、国の「マンション管理適正化法」や東京都の「マンション管理条例」の趣旨を踏まえ、立川市におけるマンション管理の具体的な施策や目標を定めたものです。

この記事では、立川市におけるマンション管理の現状と課題を明らかにし、今後のマンション管理の適正化に向けた道筋を探ります。特に、現場で活動するマンション管理士が、今後どのように管理組合への支援や介入を行っていくべきか、どのような役割を果たしていくべきかについて考察し、実践的なヒントを提供することを目的としています。

市内分譲マンションの実態

立川市のマンションストック状況

立川市では、2022年度に市内の分譲マンション(6戸以上)を対象とした実態調査が行われました。この調査によると、市内のマンションストックは着実に増加しており、築年数の経過したマンションの割合が高まっていることが明らかになっています。

回答があったマンション157件(有効回答率54.9%)のデータを元に見ていくと、総戸数は10,578戸にのぼります。築年代別に見ると、昭和58年(1983年)以前に建築されたマンションが最も多く49棟(31.2%)、次いで平成6年~平成15年(1994年~2003年)に建築されたものが45棟(28.7%)となっています。建物構造については、鉄筋コンクリート造(RC造)が128件(81.5%)と大半を占めており、次いで鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)が28件(17.8%)となっています。

アンケートから見る管理組合の現状

マンションの適正な管理運営において、管理組合の活動状況は非常に重要です。

まず、管理組合の有無については、回答のあったマンションの98.1%が管理組合が「有り」と回答しており、ほとんどのマンションで管理組合が組織されていることがわかります。

次に、マンション管理の基本ルールとなる管理規約の有無については、96.8%が管理規約が「有り」と回答しています。

管理者の選任状況については、管理規約で定めている管理者として、「管理組合の代表者(理事長等)」を選任しているマンションが91.4%と最も多くなっています。

総会の開催状況については、「年に1回」開催していると回答した管理組合が135件(88.7%)で最も多く、次いで「年に数回」が15件(9.7%)でした。「開催していない」と回答した管理組合も4件(2.6%)存在しました。

アンケートからわかる課題

立川市の実態調査からは、マンション管理におけるいくつかの課題も浮き彫りになっています。マンションを管理する上での問題点(複数回答)として最も多く挙げられたのは、「管理組合役員のなり手不足」で、72組合(45.9%)が問題であると回答しています。

次いで、「役員の高齢化」が64組合(40.8%)、「管理活動に無関心な組合員の増加」が54組合(34.4%)と続いており、管理組合活動の担い手確保や組合員の意識向上が大きな課題であることが示唆されています。

これらの課題は、マンションの経年化や居住者の高齢化といった社会構造の変化と深く結びついており、今後のマンション管理適正化において重点的に取り組むべき事項と言えるでしょう。

長期修繕計画と資金計画の実態

マンションの資産価値を維持し、快適な居住環境を長期にわたって保つためには、計画的な修繕の実施と、そのための資金計画が不可欠です。立川市の実態調査では、これらの点に関する管理組合の取り組み状況も明らかになりました。

長期修繕計画の策定率

長期修繕計画は、将来必要となる大規模な修繕工事を見据え、その内容や時期、概算費用などを定めたものです。実態調査によると、回答のあったマンション157件のうち、長期修繕計画を「作成している」と回答した管理組合は72.6%(114件)でした。一方、「作成していない」は22.3%(35件)、「作成予定または作成中」が5.1%(8件)という結果でした。

計画期間については、長期修繕計画を作成していると回答した114件のうち、「30年以上」の計画期間を持つものが70.2%(80件)と最も多く、次いで「20年~29年」が18.4%(21件)、「19年以下」が11.4%(13件)となっています。適切な維持管理のためには、長期的な視点に立った計画策定が重要であることが伺えます。

長期修繕計画の策定状況

  • 作成している: 72.6%
  • 作成していない: 22.3%
  • 作成予定または作成中: 5.1%

作成されている長期修繕計画の計画期間

  • 30年以上: 70.2%
  • 20年~29年: 18.4%
  • 19年以下: 11.4%

修繕積立金の計画・運用の課題

計画的な修繕工事を実施するためには、その原資となる修繕積立金の適切な計画と徴収が欠かせません。実態調査では、修繕積立金を「徴収している」と回答した管理組合は91.1%(143件)にのぼり、多くのマンションで資金の積み立てが行われていることがわかります。

しかしながら、課題も存在します。立川市の「マンション管理適正化推進計画」では、目標として「修繕積立金を徴収しているマンションの割合について、令和12年(2030)年度末95%」を掲げており、現状の91.1%から更なる向上が求められています。また、適切な修繕積立金額の設定や、計画通りの積立、さらには滞納への対策なども、個々の管理組合にとっては継続的な課題となり得ます。

顕在化する管理不全リスクと要支援マンション

マンションの管理は、区分所有者で構成される管理組合が主体となって行うものですが、様々な要因によりその機能が低下し、管理不全に陥るリスクが顕在化しつつあります。

活動停滞、管理不在組合の現状

立川市の実態調査で「マンションを管理する上での問題点」として最も多く挙げられたのは、「管理組合役員のなり手不足」(45.9%)でした。次いで「役員の高齢化」(40.8%)、「管理活動に無関心な組合員の増加」(34.4%)となっており、管理組合の運営を担う人材の確保が深刻な課題であることが浮き彫りになっています。

これらの問題は、役員の負担増、意思決定の遅延、専門知識の不足などを招き、結果として管理組合活動の停滞や、最悪の場合には管理不在といった状況を引き起こす可能性があります。特に、小規模なマンションや築年数の経過したマンションにおいては、これらの問題がより深刻化しやすい傾向にあると考えられます。

立川市においても、このような管理不全の兆候があるマンションや、管理組合の活動が停滞しているマンションに対する支援の必要性が認識されており、「マンション管理適正化推進計画」の中で、管理状況の把握や助言、専門家派遣などの支援策が盛り込まれています。マンション管理士には、これらの要支援マンションに対して早期に適切な介入を行い、管理の適正化をサポートする役割が期待されています。

立川市が用意する支援策と管理士の介入ポイント

マンション管理の適正化を推進するため、立川市では様々な支援策を用意しています。これらの支援策を理解し活用することは、マンション管理士が管理組合を効果的にサポートする上で非常に重要です。

立川市の主な支援策としては、まず「マンション管理計画認定制度」の運用が挙げられます。これは、管理計画が一定の基準を満たすマンションを市が認定する制度で、認定されたマンションは市場での評価向上や、住宅金融支援機構の融資における金利優遇といったメリットが期待できます。マンション管理士は、管理組合がこの認定制度を理解し、申請準備を進める際の専門的な助言や手続き支援を行うことができます。

また、市ではマンション管理に関する専門家派遣相談窓口の設置も行っています。特に、管理不全の兆候があるマンションや、運営に課題を抱える管理組合に対しては、マンション管理士等の専門家を派遣し、具体的な助言や支援を行う体制を整えています。管理士は、これらの制度を管理組合に紹介し、必要に応じて活用を促すことで、問題の早期発見・解決に貢献できます。

さらに、市はホームページやパンフレット等を通じて、マンション管理に関する情報提供や普及啓発にも努めています。法改正や新たな支援制度に関する最新情報を的確に把握し、それを管理組合に分かりやすく伝えることも、マンション管理士の重要な役割の一つです。東京都が設置している分譲マンション総合相談窓口の周知も行っています。

東京都の条例に基づく「管理状況届出制度」も、管理士が介入する上で重要なポイントとなります。この制度を通じて市はマンションの管理状況を把握し、必要に応じて助言や指導を行います。管理士は、管理組合がこの届出を適切に行えるようサポートするとともに、届出をきっかけとして管理状況の改善提案を行う機会ともなり得ます。

これらの市の支援策は、マンション管理士にとって、管理組合への提案機会を広げ、より質の高いコンサルティングを提供する上での強力なツールとなります。市の施策と連携し、積極的に活用していくことが求められます。

マンション管理士が果たすべき現場での役割

今後、マンション管理士には、従来の画一的なアドバイス提供を超えた、「課題解決型」の支援力が一層求められます。建物の高経年化、居住者の高齢化、担い手不足、無関心層の増加といった、現代のマンションが抱える複雑な課題に対し、より専門的かつ実践的なアプローチで解決に導く能力が不可欠です。

具体的には、まず、管理組合内の合意形成支援が挙げられます。価値観や経済状況の異なる区分所有者間の意見調整は容易ではありません。マンション管理士は、中立的な立場から専門的知見を提供し、円滑な意思決定をサポートする役割を担います。

次に、長期修繕計画や資金計画の策定・見直し支援も重要です。マンションの将来を見据え、実態に即した実現可能な計画を立てるためには、高度な専門知識と経験が不可欠です。修繕積立金の適切な設定や運用方法についても、的確なアドバイスが求められます。

また、前述の立川市のような自治体が用意する支援策の活用促進も、現場での重要な役割です。管理計画認定制度の申請支援、専門家派遣制度の利用提案、各種助成制度の情報提供など、管理組合が利用できる制度を最大限に活かせるようサポートすることが期待されます。

さらに、コミュニティ形成支援や、防災対策の推進といった、マンションの居住価値を高めるためのソフト面での支援も重要度を増しています。居住者間の良好な関係構築や、災害時にも安心して暮らせる体制づくりに貢献することも、これからのマンション管理士に求められる視点です。

マンション管理士は、単に法律や技術の専門家であるだけでなく、管理組合の良きパートナーとして、共に課題解決に取り組み、マンションの資産価値と居住価値の維持・向上を目指す存在となることが期待されています。そのためには、常に最新の情報を収集し、自己の専門性を高め続ける努力も不可欠です。立川市をはじめとする行政や、関連団体との連携を密にしながら、地域社会におけるマンション管理の質の向上に貢献していくことが、これからのマンション管理士の使命と言えるでしょう。

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