東京都文京区のマンション管理実態と管理士が果たすべき役割〜現状・課題・適正化への道筋〜

1. はじめに
東京都文京区は、閑静な住宅街と教育機関が集まる地域特性を持つ一方、多くの分譲マンションが重要な居住形態となっています。しかし、区内においてもマンションの高経年化は着実に進行しており、適切な維持管理が行われなければ、建物の老朽化だけでなく、居住者の高齢化と相まって管理不全に陥るリスクが高まっています。
このような状況は文京区に限った話ではなく、全国的な課題として認識されています。国はマンション管理適正化法を改正し、地方公共団体による管理適正化の推進を強化しました。これを受け、東京都も「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」を制定し、管理状況の届出制度などを導入しています。
こうした国や都の動きと連携し、文京区においても「文京区マンション管理適正化推進計画」が策定されました。この計画は、区内のマンション管理の実態を踏まえ、管理組合による主体的な管理を支援し、管理不全の予防と適正な管理の促進を図ることを目的としています。具体的には、管理計画認定制度の運用や、マンション管理士派遣などの支援策を通じて、安全で良質なマンションストックの形成を目指しています。
マンションの適正管理は、単に建物の維持保全に留まらず、防災、防犯、コミュニティ形成など、地域全体の生活環境にも影響を及ぼす重要なテーマです。
この記事では、文京区におけるマンション管理の実態と課題を明らかにするとともに、今後、現場で活動するマンション管理士が、どのように管理組合への支援や介入を行うべきかを考察します。国の施策や自治体の計画が目指す方向性を踏まえつつ、マンション管理士として地域における適正管理の担い手となるための実践的なヒントを提供することを目的とします。
2. 市内分譲マンションの実態
文京区のマンションストック状況
文京区内には、令和4年時点で約1,400棟の分譲マンションが存在し、区民の主要な居住形態の一つとなっています。
築年数を見ると、特定の年代に供給が集中しているわけではありませんが、高経年化は着実に進行しています。昭和56年の建築基準法改正以前に建てられた、いわゆる旧耐震基準のマンションも約2割を占めており、耐震性への対応も課題となっています。一方で、築12年以内(平成23年以降)の比較的新しいマンションも15%程度存在します。
区内マンションの大きな特徴として、総戸数30戸以下の小規模マンションが全体の約45%を占めている点が挙げられます。特に、昭和46年(1971年)から平成2年(1990年)にかけて建設されたマンションでは、30戸以下の割合が6割弱に達しており、この時期に小規模マンションが多く供給されたことがうかがえます。
小規模マンションは、大規模マンションと比較して管理組合の運営体制や修繕積立金の確保において課題を抱えやすい傾向があり、今後の重点的な支援対象となり得ます。
アンケートから見る管理組合の現状
文京区が令和4年度に実施した「分譲マンション管理組合アンケート調査」からは、管理組合の運営実態の一端が見えてきます。(有効回答数241件)
まず、管理組合の設置状況については、9割以上のマンションに管理組合が存在していますが、5.0%のマンションでは管理組合が組織されていない実態があります。管理組合がない場合、建物全体の維持管理や意思決定が困難になるため、早期の設立支援が求められます。
管理業務の委託状況を見ると、管理会社へ業務を全部委託しているマンションが75.5%と大半を占めています。一部委託は11.6%、自主管理は10.0%であり、約9割のマンションが何らかの形で管理会社のサポートを受けている状況です。
これらの結果から、多くの管理組合が専門家の支援を必要としている一方で、自主管理を選択している組合や、そもそも組合が存在しないケースもあり、多様な管理形態が存在していることがわかります。
アンケートからわかる課題
同アンケート調査では、管理組合が抱える具体的な課題も明らかになっています。
管理運営上の課題(何らかの問題があると回答した182件中)としては、「役員等のなり手不足」が最も多く(約63%)、次いで「管理組合活動に無関心な区分所有者の増加」(約47%) が挙げられています。役員の高齢化や負担の大きさ、住民間のコミュニケーション不足などが背景にあると考えられ、管理組合の持続的な運営を脅かす深刻な問題です。その他、「管理規約の見直しの難しさ」や「居住ルールを守らない居住者の増加」なども課題として認識されています。
- 主な管理運営上の課題
- 役員等のなり手不足: 62.6%
- 管理組合活動等に無関心な区分所有者の増加: 46.7%
- 管理規約の見直しの難しさや手間: 34.1%
- 居住ルールを守らない居住者の増加: 25.3%
建物・施設管理上の課題(何らかの問題があると回答した126件中)では、「駐車場、駐輪場、バイク置場の不足」(約44%) や、「駐車場、駐輪場、バイク置場の維持の負担」(約25%) が多く挙げられています。ライフスタイルの変化や、限られた敷地の中で設備を維持していくことの難しさがうかがえます。その他、「清掃、設備点検等の日常点検の不備」や「防火、避難設備、防犯に対応した設備の不足」なども課題となっています。
- 主な施設管理上の課題
- 駐車場、駐輪場、バイク置場の不足: 43.7%
- 駐車場、駐輪場、バイク置場の維持の負担: 24.6%
- 建物・設備の修繕ができていない: 19.8%
- 清掃、設備点検等の日常点検の不備: 20.6%
これらの課題は、放置すればマンションの資産価値低下や居住環境の悪化に直結します。特に、役員のなり手不足や無関心層の増加といったソフト面での課題は、長期修繕計画の策定・見直しや大規模修繕工事の実施といったハード面の課題への取り組みを阻害する要因ともなり得ます。
マンション管理士には、これらの現状と課題を正確に把握した上で、管理組合の実情に合わせた専門的な助言や、合意形成のサポート、具体的な解決策の提案といった役割が期待されています。
3. 長期修繕計画と資金計画の実態
長期修繕計画の策定状況と計画期間
マンションの資産価値を維持し、安全で快適な居住環境を長期にわたって確保するためには、計画的な修繕の実施が不可欠です。その指針となるのが長期修繕計画であり、その策定と適切な運用は、マンション管理の根幹をなす要素と言えます。
文京区が実施したアンケート調査によると、区内マンションの約8割が長期修繕計画を策定済みであると回答しており、多くの管理組合で計画的な修繕の重要性が認識されていることがうかがえます。これは評価すべき点ですが、一方で約1割のマンションが未策定であるという結果も見逃せません。未策定のマンションに対しては、計画策定の重要性を啓発し、具体的な策定支援へと繋げていく必要があります。
- 長期修繕計画の策定状況
- 策定済み: 約8割
- 未策定: 約1割
- 作成中・不明・無回答など: 約1割
計画が策定されているマンションについても、その内容が実態に即しているか、将来にわたって有効なものかを確認する必要があります。特に重要なのが計画期間です。国土交通省は「長期修繕計画作成ガイドライン」において、計画期間を30年以上とすることを推奨しています。これは、マンションの長寿命化を見据え、複数回の大規模修繕工事を含む長期的な視点での資金計画を立てる必要があるためです。
文京区のアンケートでは、計画を策定しているマンションのうち、計画期間が30年以上となっているのは約半数に留まり、約4分の1は30年未満となっています。計画期間が短い場合、将来必要となる修繕費用全体を正確に把握できず、いざ大規模修繕という段階で資金不足に陥るリスクが高まります。
マンション管理士としては、管理組合に対し、長期修繕計画の定期的な見直しの重要性を伝え、国交省のガイドラインに沿った適切な計画期間の設定や、修繕項目・周期・概算費用の精査などを支援していくことが求められます。
修繕積立金の計画・運用の課題
長期修繕計画の実効性を担保するのが修繕積立金です。計画と資金は表裏一体であり、適切な資金計画なくして計画的な修繕は実現できません。
アンケート調査では、修繕積立金の運用に関する直接的な設問はありませんでしたが、「行政に求める支援」として「大規模修繕工事への支援」や「劣化診断への支援」、「長期修繕計画の作成への支援」を挙げる声が多く聞かれました。これは、多くの管理組合が将来的な修繕費用やその財源確保に不安を抱えていることの表れと考えられます。
特に課題となりやすいのが、修繕積立金の額の妥当性です。新築分譲時に設定された積立金額が低すぎる、あるいは段階増額方式を採用しているものの計画通りに増額改定が行われていないケースは少なくありません。また、近年の物価や工事費の高騰が計画に反映されておらず、将来的な資金不足を招く懸念もあります。
加えて、文京区の管理計画認定基準においても指摘されているように、修繕積立金の滞納も深刻な問題です。一部の滞納であっても、管理組合全体の財政を圧迫し、計画していた修繕工事の延期や中止、あるいは他の区分所有者への負担増に繋がりかねません。また、管理費会計と修繕積立金会計が明確に区分されず、安易な流用が行われてしまうケースも、将来の資金不足を招く要因となります。
資金不足が顕在化した場合、積立金の値上げや一時金の徴収が必要となりますが、区分所有者間の合意形成は容易ではありません。
マンション管理士には、専門的な知識に基づき、長期修繕計画と連動した適切な資金計画の診断、将来の費用変動を見据えた積立金額の算定支援、効果的な滞納対策の提案、そして最も重要となる区分所有者への丁寧な説明と合意形成のサポートといった、資金計画に関する多角的な支援が期待されています。
4. 顕在化する管理不全リスクと要支援マンション
活動停滞、管理不在組合の現状とリスク
マンション管理の担い手不足は、管理不全に繋がる大きなリスク要因です。先のアンケート結果で明らかになった「役員のなり手不足」や「管理組合活動への無関心層の増加」は、管理組合活動そのものの停滞を招きます。
理事会が機能せず、総会も形式的な開催に留まる、あるいは開催すらされないといった状況では、必要な意思決定が行われず、日常の維持管理にも支障が出始めます。管理規約の見直しや長期修繕計画の更新といった重要な課題も先送りされ、問題が徐々に深刻化していく可能性があります。
さらに深刻なのは、アンケートで5.0%存在した「管理組合がない」マンションです。管理主体が存在しないため、建物全体の維持管理や将来の大規模修繕について、誰が責任を持って計画し、実行するのかが不明確な状態にあります。共用部分の清掃や点検が行き届かず、不具合が発生しても迅速な対応が取れないなど、居住環境の悪化は避けられません。
このような管理組合活動の停滞や管理不在の状態は、マンションが管理不全という深刻な状況に陥る危険な兆候と言えます。
複合化するリスク要因と管理不全の進行
マンションの管理不全は、多くの場合、単一の原因ではなく、複数のリスク要因が複合的に絡み合うことで進行していきます。
- 建物の高経年化: 築年数の経過とともに修繕が必要な箇所は増え、その費用も増大します。
- 居住者の高齢化・賃貸化・不在住戸化: 管理への関心が薄れたり、役員の担い手が減少したりします。
- 小規模マンション特有の課題: 一戸あたりの修繕積立金の負担が大きくなりやすく、組織力や資金力が脆弱な場合があります。
- 長期修繕計画の不備や資金不足: 計画的な修繕が実施できず、建物の劣化が加速します。
- 役員不在・活動停滞: 問題が発生しても解決策を検討・実行する体制が整いません。
これらの要因が相互に影響し合い、「問題の発生 → 対応の遅れ → さらなる問題の深刻化 → 対応困難」という負のスパイラルに陥ると、管理不全の状態から抜け出すことは極めて困難になります。
管理不全に陥ったマンションは、単に資産価値が著しく低下するだけでなく、建物の安全性が脅かされ、防犯・防災上のリスクが高まり、ゴミ問題などによる衛生環境の悪化も引き起こします。これは、そこに住む人々だけの問題ではなく、周辺地域の住環境や景観にも悪影響を及ぼす「地域全体の課題」として認識する必要があります。
要支援マンションへの早期介入と管理士の役割
深刻な管理不全状態に陥るのを未然に防ぐためには、その兆候を早期に発見し、予防的なアプローチをとることが極めて重要です。文京区が策定した「マンション管理適正化推進計画」や、東京都の条例に基づく管理状況届出制度などは、まさにこうした問題意識に基づき、行政として早期の段階から関与していこうとする姿勢の表れです。
管理不全の兆候としては、以下のようなものが挙げられます。
- 総会が長期間開催されていない
- 理事・監事などの役員が不在、または固定化している
- 長期修繕計画が未策定、または長期間見直されていない
- 修繕積立金が著しく不足している
- 管理費等の滞納が常態化している
- 日常的な清掃や点検が行き届いていない
マンション管理士は、これらの兆候を見逃さず、専門的な知見から管理状況を的確に診断し、潜在的なリスクを早期に発見する重要な役割を担っています。
そして、発見された課題に対しては、具体的な改善策を提示し、その実行を支援していくことが求められます。例えば、管理規約や使用細則の見直し、理事会の運営方法の改善提案、コミュニティ形成支援、長期修繕計画や資金計画の抜本的な見直し、そして、それらを実現するための区分所有者間の合意形成サポートなど、その支援内容は多岐にわたります。
特に、活動が著しく停滞している、あるいは管理組合が不在となっているような「要支援マンション」に対しては、より積極的な関与が必要です。行政の支援制度活用を促したり、必要に応じて弁護士や建築士といった他の専門家と連携したりしながら、マンション再生に向けた道筋を示す役割も期待されます。
これからのマンション管理士には、単に相談に応じる受け身の姿勢だけでなく、課題を自ら発見し、解決に向けて主体的に管理組合を導いていく「課題解決型の推進役」としての役割が、ますます強く求められていると言えるでしょう。
5. 文京区が用意する支援策と管理士の介入ポイント
文京区による多様な管理組合支援メニュー
マンション管理の適正化を推進するため、文京区では「マンション管理適正化推進計画」に基づき、管理組合の状況やニーズに応じた多様な支援策を用意しています。これらの支援策を有効に活用することが、課題解決への近道となる場合があります。
主な支援策は、以下のカテゴリに分類できます。
- 専門家によるサポート:
- マンション管理士派遣: 管理組合が開催する理事会や総会、各種専門部会などにマンション管理士を派遣し、維持管理や大規模修繕、運営に関する助言を行います。
- 分譲マンション管理個別相談: 区分所有者や居住者が抱える管理上の様々な悩み(日常生活のトラブル、管理組合運営、管理会社との関係など)について、マンション管理士が個別にアドバイスを提供します。
- 分譲マンション管理組合設立支援: まだ管理組合が設立されていないマンションに対し、設立手続きや管理規約の作成についてマンション管理士が助言・提案を行います。
- (東京都の制度)マンションアドバイザー制度利用助成: 公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンターが実施するマンションアドバイザー制度の利用料を助成します。
- 費用負担の軽減(助成金):
- マンション劣化診断調査費助成: 大規模修繕工事の実施に不可欠な劣化状況の調査費用の一部を助成します。
- マンション長期修繕計画作成費助成: 計画的な修繕の指針となる長期修繕計画の作成費用の一部を助成します。
- マンション共用部分改修費助成: 共用部分のバリアフリー化工事などの費用の一部を助成します。
- 耐震診断・耐震設計・耐震改修工事費助成: 旧耐震基準マンション等の耐震化にかかる費用を段階的に助成します。
- 断熱窓設置費助成: 省エネルギー化に資する断熱窓の設置費用の一部を助成します。
- 情報提供・知識普及:
- マンション管理セミナーの開催: マンション管理に関する最新情報や専門知識について、専門家が解説するセミナーを開催します。
これらの支援策は、管理組合が抱える運営面・費用面での課題解決を後押しするために設けられています。
管理組合のニーズと支援策のマッチング
文京区のアンケート調査では、管理組合が行政に求める支援として、「大規模修繕工事への支援」「劣化診断への支援」「耐震診断・改修への支援」「長期修繕計画の作成への支援」などが上位に挙げられていました。
これは、多くの管理組合が建物の維持管理、特に費用負担が大きい大規模修繕や耐震化、そしてその前提となる計画策定や現状把握(劣化診断)に強い関心とニーズを持っていることを示しています。
幸いなことに、これらのニーズに対して、文京区は「劣化診断調査費助成」「長期修繕計画作成費助成」「耐震化関連助成」といった、的確に対応する支援メニューを用意しています。実際に、これらの助成制度に対する管理組合の利用意向も高い傾向が見られます。
しかしながら、「制度を知らなかった」「申請方法が複雑で断念した」「どの制度が自分たちのマンションに適用できるか分からない」といった理由で、せっかくの支援策が十分に活用されていないケースも少なくないと考えられます。
マンション管理士による積極的な介入と提案機会
ここで重要となるのが、マンション管理士の役割です。管理士は、行政の支援制度と、それを必要としている管理組合とを繋ぐ「橋渡し役」としての機能を発揮することが期待されます。
具体的には、以下のような介入ポイントや提案機会が考えられます。
- 情報提供と活用提案: 担当する管理組合の状況や課題を把握した上で、利用可能性のある支援制度について、管理士側から積極的に情報を提供し、制度を活用するメリットを具体的に説明します。「こんな助成金がありますよ」と知らせるだけでも、管理組合にとっては大きな前進に繋がることがあります。
- 申請サポート: 助成金等の申請手続きは、管理組合役員にとって大きな負担となる場合があります。管理士は、申請書類の作成に関する助言や、場合によっては作成のサポートを行うことで、制度活用のハードルを下げることができます。
- 専門家派遣の活用: 管理組合が抱える課題に応じて、管理士自身の派遣制度の活用を促すとともに、建物の劣化診断や耐震診断など、より専門的な知見が必要な場合には、建築士等の専門家派遣制度の利用も視野に入れた提案や、適切な専門家との連携調整を行います。
- 助成金を活用した計画策定: 劣化診断の実施や長期修繕計画の作成、共用部分の改修工事などを提案する際には、当初から関連する助成金の活用を前提とした費用計画やスケジュールを示すことで、管理組合の意思決定を力強く後押しすることができます。
- 管理計画認定制度への対応: 文京区でも運用が開始されている「マンション管理計画認定制度」は、適切な管理が行われているマンションを認定する制度であり、認定取得には税制優遇(固定資産税減額の特例 ※期間限定)や、マンションの市場評価向上といったメリットが期待できます。管理士は、この制度の意義やメリットを管理組合に説明し、認定基準をクリアするための具体的なコンサルティング(規約改正、計画見直し、運営改善など)や、認定申請のサポートを行うことができます。これは、管理士の専門性を発揮し、管理組合の価値向上に貢献できる、新たな重要な業務領域です。
6. マンション管理士が果たすべき現場での役割 今後求められる「課題解決型」の支援力
文京区のマンション管理が直面する複合的な課題
これまで見てきたように、文京区のマンション管理は、他の多くの都市部と同様に、様々な課題に直面しています。
- ストックの高経年化が進み、特に旧耐震基準のマンションも少なくないこと。
- 小規模マンションが多く、管理組合の運営基盤や資金力が相対的に脆弱な可能性があること。
- 役員のなり手不足や居住者の無関心が深刻化し、管理組合の活動停滞リスクが高まっていること。
- 長期修繕計画が未策定・不十分であったり、修繕積立金が不足したりする懸念があること。
- これらの要因が複合的に絡み合い、管理不全に陥るリスクが顕在化しているマンションが存在すること。
これらの課題は、それぞれが独立しているのではなく、相互に関連し合い、問題をより複雑で根深いものにしています。もはや、従来の画一的な管理手法や、受動的なアドバイスだけでは、根本的な解決を図ることが難しくなってきています。
「課題解決型」支援力へのシフト
このような状況下で、マンション管理士に求められる役割も変化しています。管理組合からの相談を待つ、あるいは理事会や総会に出席して定例的な助言を行うといった従来の顧問業務の重要性は変わりませんが、それだけでは十分とは言えません。
今後、マンション管理士に強く求められるのは、管理組合が抱える問題や潜在的なリスクを能動的に発見し、専門的な知見に基づいて具体的な解決策を策定・提案し、その実行を粘り強く支援していく「課題解決型」の支援力です。
この「課題解決型」支援力は、具体的に以下のような能力によって構成されます。
- 深い洞察力に基づく課題発見能力: 管理規約や総会議事録、財務諸表、建物診断結果といった各種資料を多角的に分析し、表面的な事象だけでなく、その背景にある潜在的なリスクや本質的な問題をプロアクティブ(主体的・能動的)に見抜く力。漫然と資料を見るのではなく、「何か問題はないか」「将来リスクはないか」という視点で能動的に情報を読み解く姿勢が求められます。
- 実現可能な解決策の提案と実行支援力: 課題分析の結果に基づき、法律・会計・建築・設備などの専門知識を駆使して、個々のマンションの実情に合わせた具体的かつ実現可能な改善策(運営体制の見直し案、管理規約改正案、実現可能な長期修繕計画・資金計画案、コミュニティ活性化策など)を策定し、管理組合に分かりやすく提示する力。そして、提案だけに留まらず、その計画が実行に移されるよう、理事会運営をサポートし、区分所有者の合意形成を後押ししていく推進力。
- 多様な価値観をまとめる合意形成能力: マンションには、年齢、職業、ライフスタイル、管理への関心度など、多様な価値観を持つ人々が暮らしています。区分所有者間の利害が対立することも少なくありません。管理士には、中立的な立場から各区分所有者の意見に耳を傾け、粘り強く対話を重ね、相互理解を促進し、最終的な合意形成へと導く高度なコミュニケーション能力と調整力が不可欠です。理事会の円滑な運営支援や、総会での分かりやすい説明、質疑応答への的確な対応なども重要な役割です。
- 専門家ネットワークの構築と活用能力: マンション管理に関する課題は、管理士一人だけで解決できるとは限りません。法律問題については弁護士、税務については税理士、高度な建築・設備診断については建築士や設備診断技術者、具体的な工事については施工会社など、関連分野の専門家との緊密なネットワークを日頃から構築しておくことが重要です。そして、必要に応じて最適な専門家と連携し、チームとして課題解決にあたるコーディネート能力が求められます。
- 最新情報の収集と応用力: マンション管理適正化法や区分所有法などの関連法規、国や自治体の支援策、新しい管理手法や建材・工法、関連判例などは、常に変化・更新されています。これらの最新情報を常に収集・学習し、その知識を担当する管理組合の状況に合わせて的確に還元・応用していく能力は、専門家として不可欠な要素です。
