神奈川県秦野市のマンション管理実態と管理士が果たすべき役割〜現状・課題・適正化への道筋〜

1. はじめに
秦野市においても、分譲マンションの老朽化が顕著になっています。令和5年(2023年)時点で市内には約5,856戸の分譲マンションが存在し、その多くが1970年代から1990年代に建設されたものです。すでに総戸数の約7割(71.7%)が築30年以上を経過しており、今後10年でその割合は約9割に達すると予測されています。
マンションの高経年化に伴い、建物自体の老朽化に加え、区分所有者の高齢化という「二重の老い」が進行することで、管理不全や修繕遅延のリスクが高まることが懸念されています。適切な維持管理が行われないマンションが放置された場合、居住者の生活環境のみならず、周辺地域の安全性・景観にも悪影響を及ぼすおそれがあります。
こうした状況を踏まえ、秦野市は2023年10月に「マンション管理適正化推進計画」を策定しました。本計画は、2020年に改正された「マンション管理適正化法」に基づき、国が示した基本方針に沿ったものです。
国は、地方自治体に対して、地域内のマンション管理状況の把握と、適正化推進に向けた具体的な施策の策定・実施を求めています。
秦野市は、今後さらに進むマンションの高経年化を見据え、「安心・安全な住環境の確保」と「マンション資産価値の維持」を目的に、本計画に基づく各種施策を展開する方針です。
本記事では、秦野市におけるマンションの現状や管理組合の運営実態を整理した上で、今後、マンション管理士が現場で果たすべき役割について解説します。
2. 市内分譲マンションの実態
秦野市のマンションストック状況
秦野市内のマンションは、市内各所に広く分布しており、その多くが1970年代から1990年代にかけて建設されたものです。2023年度に実施された市のアンケート調査によると、以下のような構成となっています。
- 総戸数:約5,856戸
- 築30年以上のマンション:4,200戸(71.7%)
- 建築年別では1981年~1990年の建設が最多(2,170戸)
- これに続き、1971年~1980年が718戸、1991年~1993年が1,312戸
このように、築30年以上の高経年マンションがすでに多数を占めており、今後10年で9割近くが築30年以上となる状況が見込まれています。
アンケートから見る管理組合の現状
市が2023年に実施したアンケート調査(回答率81.8%)からは、管理組合の運営状況や課題が明らかになりました。
- 98%のマンションに管理組合が設置されており、その多くが年1回以上総会を開催
- 100%の管理組合が管理費を徴収しているが、54%の組合で3か月以上の管理費滞納住戸がある
また、マンションの管理運営における主な課題としては、以下が挙げられています。
- 役員のなり手不足(50%の組合が「高齢化による人材不足」を課題と回答)
- 空き住戸や賃貸化の増加(19%の組合が「懸念がある」と回答)
これらの課題は、今後の高経年化に伴いさらに顕在化すると考えられます。組合運営が停滞したり、役員不在のまま総会や理事会が未開催となるリスクが高まりつつあります。
3. 長期修繕計画と資金計画の実態
長期修繕計画の策定率
秦野市が実施した2023年度のアンケート調査によると、長期修繕計画(30年以上)を策定しているマンションは約54%という結果となりました。これは、全国平均とほぼ同水準にありますが、秦野市が掲げる「2030年度までに65%以上」という目標には届いていない状況です。
特に築30年以上の高経年マンションでは、建物や設備の老朽化が進み、計画的な修繕が必須です。しかし、長期的な視点での修繕計画が不十分な組合も多く、具体的には次のような課題が挙げられます。
- 築40年以上でも長期修繕計画が未策定のマンションが存在
- 作成されていても「30年未満」の短期計画にとどまるケースがある
- 実態に合わない古い計画のまま更新が行われていない組合もある
こうした実情は、突発的な大規模修繕や改修工事への備えが不十分であることを意味しており、管理不全リスクの一因ともなっています。
修繕積立金の計画・運用の課題
長期修繕計画と密接に関連するのが修繕積立金の積立状況です。アンケート結果によると、約70%の管理組合が積立金の不足を課題として認識していることが明らかになりました。
主な課題は以下のとおりです。
- 計画で算出された必要額に対し、実際の積立水準が低い組合が多数
- 物価高騰や資材費の上昇を反映せず、過去の水準のまま積立金額が据え置かれている
- 管理費や修繕積立金の滞納が慢性化しているマンションもある
実際には、資金不足のまま大規模修繕の時期を迎えることで、一時金の徴収や金融機関からの借入を余儀なくされるケースもあります。また、住民間の負担格差やトラブル発生の原因にもなりかねません。
秦野市としては、こうした状況を改善するため、修繕積立金の計画的な見直しや、段階的な積立額の引き上げを推奨しています。
管理士としては、長期修繕計画と積立金のバランスを考慮した具体的な改善策の提案、組合員への丁寧な説明支援が重要な役割となります。
4. 顕在化する管理不全リスクと要支援マンション
活動停滞、管理不在組合の現状
秦野市内では、管理組合の機能が著しく低下し、「要支援マンション」に分類される可能性のある物件も散見されます。実際に、アンケート結果からも以下のようなリスクが浮き彫りになっています。
- 総会・理事会の未開催が長期間続いているマンションがある
- 管理者(理事長)不在、または役員が高齢化し機能不全に陥っている組合が存在
- 役員のなり手不足による運営停滞が顕著
- 空き住戸・賃貸化の進行によるコミュニティの希薄化
こうした要因が複合することで、組合内の意思決定が困難になり、結果として長期修繕計画の未策定や積立金不足を引き起こす「負の連鎖」に陥る危険性が高まります。
秦野市は、こうした組合に対して早期介入の必要性を認識しており、アドバイザー派遣などの外部支援策を積極的に活用して、改善を図っていく方針を示しています。
5. 秦野市が用意する支援策と管理士の介入ポイント
秦野市は、2023年に策定した「マンション管理適正化推進計画」の中で、分譲マンションの管理状況を改善するための各種支援策を打ち出しています。これらの施策は、管理組合の自立支援や、管理不全リスクの低減に向けた重要な取り組みであり、マンション管理士が現場で活用すべき制度でもあります。
管理計画認定制度の導入
秦野市は、2024年4月より「管理計画認定制度」を導入します。この制度は、一定の基準を満たした管理計画を有するマンションを市が認定し、そのマンションに対する社会的信用を高めるものです。認定に際しては、以下のような基準が設定されています。
- 管理者・監事の選任がされているか
- 年1回以上の総会開催が実施されているか
- 30年以上の長期修繕計画が策定されているか
- 修繕積立金が適正水準で積み立てられているか
これらの要件を満たしたマンションは、管理適正化が図られている物件として市により認定され、住民への意識啓発や資産価値維持にも寄与します。
マンション管理士は、組合とともに認定取得に向けた計画の見直し・運営体制の強化支援を行うことが期待されています。
アドバイザー派遣制度の実施
秦野市は、マンション管理士などの専門家を管理組合に派遣する「アドバイザー派遣制度」を2024年度より開始します。これは、要支援マンションや、運営に不安を抱える組合に対し、第三者的な立場からアドバイスを提供するものです。
派遣される管理士は、次のような支援を行います。
- 総会・理事会運営のサポート
- 長期修繕計画や資金計画の策定支援
- 管理規約や細則の見直し・改定助言
- 組合のコミュニケーション改善に向けた助言
現場での実践的な指導やコンサルティングを通じ、組合の適正な運営体制構築を後押しすることが役割です。
セミナー・個別相談会の開催
秦野市は、管理組合向けにセミナーや個別相談会を定期的に実施する予定です。こうした場においても、マンション管理士が講師や相談員として参加し、法改正への対応や管理実務のノウハウ提供を行う機会が設けられています。
これにより、管理士は組合との接点を増やすとともに、地域に根差した「信頼される専門家」としての立ち位置を確立することが可能となります。
6. マンション管理士が果たすべき現場での役割
秦野市の支援制度を踏まえると、マンション管理士には、以下のような現場実務での役割が強く求められます。
相談・アドバイザー業務
まず、管理士は管理組合の最前線での相談役として、日常的な運営課題に対する助言を行います。
特に、役員不足や運営停滞が懸念される組合に対し、総会運営の支援や、役員の負担軽減策の提案などを実施することが重要です。
長期修繕計画と資金計画の支援
秦野市の課題として浮き彫りになった長期修繕計画未策定・積立金不足への対応として、管理士は、長期的な修繕計画の立案支援や、積立水準の見直し・改善の指導を担います。これにより、組合の資金不足や修繕遅延リスクの軽減を目指します。
管理規約の見直し・組合運営の改善
高経年化が進む中で、管理規約が時代遅れとなっているマンションも多く見受けられます。
管理士は、現行法規に即した規約や使用細則の見直しを提案し、合意形成プロセスの設計や、住民間のルール遵守意識の向上をサポートします。
トラブル・課題解決の調整役
住民間のトラブルや、組合内部での意見対立の調整役としても管理士は重要な役割を担います。
中立的な第三者としての立場から、合意形成の場に同席し、スムーズな問題解決に導く働きが期待されます。
秦野市では今後、こうした多様なニーズに応じた「複合的な支援型管理士」としてのスキル発揮が求められると言えるでしょう。
