東京都町田市のマンション管理実態と管理士が果たすべき役割〜現状・課題・適正化への道筋〜

はじめに

東京都町田市では、多くの分譲マンションが建設され、市民の主要な居住形態の一つとなっています。しかしながら、これらのマンションの中には経年化が進行しているものも少なくありません。築年数の経過とともに、建物の老朽化や設備の不具合、さらには居住者の高齢化や価値観の多様化といった課題が顕在化しつつあります。

このような状況を踏まえ、町田市をはじめとする多くの自治体では、マンションの管理の適正化を推進するための計画、いわゆる「推進計画」を策定し始めています。国もまた、マンション管理適正化法などを通じて、管理組合による主体的な管理を促し、管理不全に陥るマンションを未然に防ぐための施策を強化しています。

この記事では、町田市におけるマンション管理の現状と課題を明らかにし、今後のマンション管理の適正化に向けた道筋を探ります。そして、その中でマンション管理士がどのような役割を担い、どのように専門性を発揮して支援や介入を行うべきかについて考察します。現場で活動するマンション管理士の皆様が、地域における適正管理の担い手として、より実践的なヒントを得ることを目的としています。

市内分譲マンションの実態

町田市のマンションストック状況

町田市における分譲マンションの現状を把握するため、市の調査結果に基づきストック状況を見ていきます。

平成25年の住宅・土地統計調査によると、町田市内の居住世帯のある住宅のうち、共同住宅は約51%を占めています。これは都内平均の約70%と比較すると低いものの、全国平均の約43%と比べると高い割合です。これらの共同住宅のうち、約85%が鉄筋・鉄骨コンクリート造または鉄骨造といった非木造の建物です。

2017年1月時点の固定資産課税台帳に基づく調査では、市内の分譲マンション(区分所有・3階建て以上・非木造・10戸以上)は、521棟、総戸数23,729戸が確認されています。このうち民間供給のマンションは349棟、19,739戸です。

民間供給マンションの建築時期を見ると、築30年未満のものが全体の約90%(棟数ベースでは約86%)を占めています。一方で、1981年5月以前に建築された、いわゆる旧耐震基準のマンションも約6%(21棟、495戸)存在しており、これらのマンションでは耐震性への懸念も考慮する必要があります。

アンケートから見る管理組合の現状

町田市が2017年12月から2018年2月にかけて実施した分譲マンション管理組合向けのアンケート調査(回収率34.2%)から、管理組合の運営実態の一端を垣間見ることができます。

まず、管理組合の有無については、民間供給マンションからの回答の94%が「あり」と回答しており、ほとんどのマンションで何らかの組合活動が行われていることが示唆されます。しかし、3%は「なし」と回答しており、組合活動がされていないマンションも少数ながら存在します。

総会の開催状況に関しては、民間供給マンションからの回答では、年に1回開催しているところが93%と大多数を占めています。出席割合については3割程度という回答が最も多い状況でした。

アンケートからわかる課題

同アンケート調査では、管理組合が抱える課題についても尋ねています。民間供給マンションからの回答(複数回答)で最も多かったのは「防災への備え」(26%)でした。

次いで「建物の老朽化」(18%)「役員のなり手不足」(16%)が挙げられています。また、「住民が無関心」(13%)といったコミュニティに関する課題や、「ペットに関すること」(9%)のような生活ルールに関する課題も認識されています。

これらの課題は、マンションの規模や築年数、居住者の状況によって様々ですが、特に建物の老朽化は、今後さらに多くのマンションで深刻化する可能性があり、計画的な修繕や資金確保が不可欠です。また、役員のなり手不足や住民の無関心は、管理組合の運営基盤を揺るがしかねない問題であり、区分所有者全体の管理意識の向上が求められます。

3. 長期修繕計画と資金計画の実態

マンションの資産価値を維持し、快適な居住環境を長期にわたって保つためには、計画的な修繕と、その裏付けとなる資金計画が不可欠です。

長期修繕計画の策定率

町田市のアンケート調査(2018年)では、長期修繕計画の有無そのものを直接尋ねた具体的な設問と回答の集計結果は見当たりませんでした。しかし、大規模修繕工事の実施状況については、「実施した」と回答した民間供給マンションが69%にのぼり、特に築10年程度が経過したマンションのほとんどで、一度は大規模修繕工事が行われていることが示されています。大規模修繕工事の実施は、その前提として何らかの修繕計画が存在することを示唆しています。

しかし、計画が策定されていても、定期的な見直しがなされていなかったりするケースも考えられます。マンション管理士としては、管理組合に対し、専門的な知見に基づいた長期修繕計画の策定支援や、定期的な見直しのコンサルティングを行うことが期待されます。

修繕積立金の計画・運用の課題

長期修繕計画と並んで重要なのが、修繕工事の費用を賄うための修繕積立金です。

町田市のアンケート調査によると、民間供給マンションの82%が修繕費について「計画的に積み立てている」と回答しています。これは多くの管理組合で修繕積立金の重要性が認識され、一定の取り組みがなされていることを示しています。

しかしながら、14%は「積み立て不足」と回答しており、将来的な大規模修繕工事の実施に不安を抱えるマンションが少なからず存在することがうかがえます。「日常的な管理経費については問題ないものの、大規模修繕工事などの費用には不安がある分譲マンションも少なからずある」と調査結果は分析しています。

修繕積立金の不足は、必要な時期に適切な修繕工事が行えない事態を招き、建物の劣化を進行させ、結果として資産価値の低下や居住環境の悪化につながる可能性があります。

マンション管理士は、管理組合の財政状況を的確に把握し、長期的な視点から無理のない資金計画の策定、積立金改定の提案、さらには滞納対策など、資金面での課題解決に向けた専門的なサポートを行うことが求められます。

4. 顕在化する管理不全リスクと要支援マンション

マンションの経年化や居住者の変化に伴い、管理組合の機能が低下し、いわゆる「管理不全」に陥るリスクが顕在化しつつあります。

活動停滞、管理不在組合の現状

町田市のアンケート調査では、民間供給マンションのうち3%が「管理組合なし」と回答しています。これは、区分所有法で義務付けられている管理組合が存在しない、あるいは実質的に機能していない状態にあるマンションが少数ながら存在することを示しています。

また、管理組合が存在していても、「役員のなり手不足」(16%)「住民が無関心」(13%)といった課題がアンケートで指摘されていることから、理事会活動が停滞したり、総会運営が困難になったりしているケースも想定されます。役員の高齢化や負担の大きさ、区分所有者の賃貸化による当事者意識の希薄化などが背景にあると考えられます。

さらに、市の現場踏査の結果では、過去に市からの郵送物が「宛先不明」で返還されたマンションの中に、「管理人室、管理組合ポスト、組合員向けの掲示板等といった管理組合の存在を示すようなものがない物件が多かった」との報告があります。これは、実質的に管理組合活動が確認できない状況を示唆しています。

加えて、築年数が古いマンションほど空住戸率が高い傾向が見られ、特に1981年5月以前に建築された旧耐震基準のマンションでは空住戸率が5%を超えています。空室の増加は、管理費や修繕積立金の収入減に繋がり、管理組合の財政を圧迫するだけでなく、コミュニティの活力低下や防犯・防災上のリスク増大にもつながる可能性があります。

このような活動が停滞している、あるいは実質的に管理主体が不在となっているマンションは、建物の維持管理が適切に行われず、急速に老朽化が進むリスクを抱えています。町田市も課題を認識しており、行政や専門家による支援の必要性が高まっています。マンション管理士には、このような状況にあるマンションを早期に発見し、適切なアドバイスや運営支援を行うことで、管理不全への進行を食い止める役割が期待されます。

5. 町田市が用意する支援策と管理士の介入ポイント

町田市では、分譲マンションの管理適正化を推進するため、様々な施策や情報提供を行っています。これらの支援策を有効に活用し、管理組合の自主的な取り組みを促進する上で、マンション管理士の専門的なサポートが鍵となります。

町田市は、「町田市マンション管理適正化推進計画」に基づき、主に以下の目標を掲げて管理組合を支援する方針です。

  • 管理組合による自主的かつ適正な維持管理の推進: 市は、マンション管理士等の専門家やマンション管理業者等と連携し、管理の重要性や方法等についての普及啓発、管理組合の取組支援を行うとしています。
  • 管理状況届出制度等を活用した適正な維持管理の促進: 東京都の条例に基づく管理状況届出制度の運用を通じて把握した管理状況に応じ、専門家や関係団体等とも連携して支援策の充実強化に取り組む方針です。
  • 管理計画認定制度の運用: 改正マンション管理適正化法に基づき、一定の基準を満たすマンション管理計画を認定する制度を実施しています。認定を受けることで、管理組合の適正な運営等が公的に示され、市場価値の維持・向上や、場合によっては融資条件の優遇などが期待できます。
  • 情報提供・普及啓発: 市の窓口や広報誌、ホームページ等を通じて、普及・啓発を進めています。

これらの市の施策に対し、マンション管理士は以下のようなポイントで積極的に介入し、管理組合を支援することができます。

  • 情報提供と制度活用の橋渡し: 市が提供する支援策や制度(管理計画認定制度、各種相談窓口、セミナー等)に関する情報を管理組合に正確に伝え、その活用を具体的にサポートします。例えば、管理計画認定制度の申請手続き支援や、認定基準達成のためのアドバイスなどが考えられます。
  • 専門知識の提供と合意形成支援: 管理組合が抱える専門的な課題に対し、適切なアドバイスを提供します。特に、高経年マンションにおける大規模修繕工事の計画、資金調達、施工業者の選定など、専門家として意思決定をサポートします。
  • 管理状況の診断と改善提案: 管理状況届出制度への対応支援や、市の指針に基づいた管理状況のセルフチェック支援を通じて、管理組合の現状と課題を客観的に把握します。その上で、具体的な改善策を提案し、実行をサポートします。
  • 地域コミュニティとの連携: 市や地域の関連団体との連携を視野に入れ、防災対策や地域活動への参加など、マンション単独では解決が難しい課題への取り組みを支援します。

マンション管理士は、市の施策を単に紹介するだけでなく、それぞれのマンションの実情に合わせて最適に活用できるよう、管理組合に寄り添ったコンサルティングを行うことが重要です。

6. マンション管理士が果たすべき現場での役割

今後、マンション管理士には、これまで以上に「課題解決型」の支援力が求められます。建物の高経年化、居住者の高齢化や価値観の多様化、担い手不足といった複合的な課題に直面するマンションが増加する中で、マンション管理士は管理組合の良きアドバイザーであり、実務的なサポーターとしての役割を担う必要があります。

具体的には、以下のような支援が期待されます。

  • プロアクティブな課題発見と提案: 定期的な訪問や情報収集を通じて、マンションが抱える潜在的なリスクや課題を早期に発見し、管理組合に対して具体的な改善策や将来を見据えた提案を積極的に行います。
  • 多様な主体間の合意形成促進: 区分所有者間の意見調整や、理事会、総会における円滑な合意形成を支援します。特に、修繕積立金の値上げや大規模な改修工事など、意見が対立しやすい事項については、建設的な結論へと導くファシリテーション能力が求められます。
  • 法令遵守とガバナンス強化の支援: 管理組合の運営が各種法令(区分所有法、マンション管理適正化法等)や管理規約に則って適正に行われるよう助言し、コンプライアンス体制の構築を支援します。
  • 外部専門家ネットワークの活用: マンション管理士自身の専門分野に加え、必要に応じて弁護士、建築士、設備専門家などの他の専門家と連携し、チームとして管理組合を支援する体制を構築します。
  • 中長期的な視点に立ったコンサルティング: 目先の課題解決だけでなく、マンションの将来像(建替え、改修、管理のあり方等)を見据えた中長期的な視点からのアドバイスや計画策定支援を行います。特に、老朽化が進行するマンションにおいては、再生に向けた検討の初期段階からの関与が重要となります。

マンション管理士は、単に知識や情報を提供するだけでなく、管理組合の主体性を尊重しながら、共に汗を流し、課題解決に向けて伴走するパートナーとしての姿勢が不可欠です。現場の状況を的確に把握し、それぞれのマンションに最適なソリューションを提供することで、地域社会におけるマンションストックの質の維持・向上に貢献していくことが期待されています。

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