東京都目黒区のマンション管理実態と管理士が果たすべき役割〜現状・課題・適正化への道筋〜

1. はじめに

東京都目黒区において、マンションは主要な居住形態であり、地域社会の重要な基盤となっています。しかし、全国と同様にマンションの老朽化が進行しており、令和4年度の調査では、区内の分譲マンション等の約2割が築40年を超えています。今後、これらの高経年マンションが増加するにつれ、維持管理や修繕、建替えといった課題が一層顕在化することが懸念されます。

マンション特有の課題として、多様な価値観を持つ居住者間の合意形成の難しさや、大規模な建物の維持管理に必要な専門知識の不足などが挙げられます。特に、建物の老朽化と居住者の高齢化が同時に進む「二つの老い」は、管理組合の担い手不足や機能低下を招き、管理不全のリスクを高めます。管理不全は、資産価値の低下や、倒壊等の危険、周辺環境への悪影響にも繋がりかねません。

こうした背景から、国は令和2年にマンション管理適正化法を改正し、地方公共団体によるマンション管理適正化推進計画の策定や、管理計画認定制度の創設など、管理適正化を推進する新たな枠組みを設けました。目黒区もこれに基づき「目黒区マンション管理適正化推進計画」を策定し、マンションの適切な管理を支援しています。

この記事では、目黒区のマンション管理の実態と課題、現場で活動するマンション管理士の皆様が、今後どのように支援や介入を行うべきか、その役割と実践的なヒントを考察します。

2. 市内分譲マンションの実態

目黒区のマンションストック状況

統計データから目黒区のマンションの現状を見ていきましょう。

平成30年の調査では、区内の分譲マンション等(持ち家の共同住宅)は約3万4,500戸で、これは全住宅ストックの約24%にあたります。

築年数を見ると、築40年以上の分譲マンション等が全体の約2割(19.6%)を占めており、賃貸(9.1%)より高経年化が相対的に進んでいます。今後、これらの維持管理や大規模修繕、建替えが大きな課題となるでしょう。

建物構造は古いほど木造が多く、階数別では6階建以上が約半数(49.4%)ですが、23区全体と比較すると3〜5階建の中高層が多い(39.9%)のが特徴です。

居住者の状況では、65歳以上の世帯主が約4割(42.6%)を占め、高齢化が進んでいます。これは管理組合の担い手確保やバリアフリー化といった課題にも繋がります。

アンケートから見る管理組合の現状

令和4年度の目黒区マンション実態調査(有効回答199件、比較的高経年のマンションの実情を反映)から、管理組合の運営状況を見ていきます。

まず、約96%のマンションで管理組合が組織されており、基本的な管理体制は存在します。

次に、管理ルールである管理規約は、約91%で整備され、そのうち約72%が「マンション標準管理規約」に準拠しています。

役員の選任については、約93%で選任されています。意思決定機関である総会は、約89%が年に1回以上開催しており、多くの管理組合で基本的な運営が行われています。

アンケートからわかる課題

一方で、アンケート調査からはマンション管理における様々な課題も浮き彫りになっています。管理組合が挙げた「管理上の課題」(複数回答)を見ると、「ごみ出しなど、生活ルールを守らない居住者がいる」(33.7%)が最も多く、次いで「管理組合の役員の担い手がいない」(28.1%)「管理に対する居住者の関心が低い」(21.1%)「居住者間のトラブル(騒音、ペットなど)」(21.1%)「修繕積立金が少ない・不足している」(20.6%)などが上位に挙がっています。

これらの結果から、目黒区のマンションでは、以下のような課題が存在すると考えられます。

  • 居住者間の問題: 日常生活のルール遵守やコミュニケーション不足。
  • 管理組合運営の問題: 役員のなり手不足、負担の偏り、組合活動への関心の低さ。
  • 建物・設備の維持管理の問題: 修繕積立金の不足や、将来的な大規模修繕・建替えに関する合意形成の難しさ。

これらの課題は相互に関連し、放置すれば管理不全に繋がりかねません。マンション管理士には、これらの課題を的確に把握し、管理組合の実情に応じた解決策を提案していくことが求められます。

3. 長期修繕計画と資金計画の実態

マンションの資産価値と良好な居住環境を長期にわたり維持するには、計画的な修繕と資金計画が極めて重要です。目黒区における長期修繕計画と修繕積立金の状況を見ていきます。

長期修繕計画の策定率

目黒区のアンケート調査では、長期修繕計画を策定しているマンションは76.4%に留まり、約4分の1(22.1%)では未策定です。

さらに、計画は定期的な見直しが不可欠ですが、策定済みのマンションでも改定経験があるのは55.9%改定予定は23.0%に留まり、約2割(改定なし7.2%、無回答13.8%)で見直しが適切に行われていない可能性があります。計画の実効性にも課題がうかがえます。

修繕積立金の計画・運用の課題

アンケートでは約2割(20.6%)の管理組合が「修繕積立金が少ない・不足している」と回答しており、資金不足への懸念が示されています。ヒアリング調査でも、資金繰りや突発的な修繕費の拠出に苦心する声が聞かれました。

また、修繕積立金は管理費と明確に区分経理する必要がありますが、約14%のマンションで区分経理が徹底されていない(区分なし8.5%、一方に充当5.5%)状況です。これは将来の資金不足リスクを高めます。

実際の大規模修繕工事の実施状況を見ると、外壁や屋上防水は約7割で実施されている一方、給水管・排水管工事や設備更新については、実施していない、または把握していないマンションが半数以上です。これらの遅れは、漏水など居住生活への直接的な影響リスクを高めます。

さらにヒアリングでは、理事長交代や管理会社変更に伴い、修繕履歴が適切に引き継がれていないケースも見られました。履歴の散逸は、適切な維持管理の妨げとなります。

マンション管理士は、これらの課題解決に向け、計画策定・見直し支援、適正な積立金額の設定、区分経理の徹底、履歴管理方法の提案など、具体的なサポートを行うことが重要です。

4. 顕在化する管理不全リスクと要支援マンション

前述のような課題が放置されると、管理組合の機能低下や停止により、必要な維持管理が行われず、建物の老朽化や居住環境の悪化が進む管理不全のリスクが高まります。

活動停滞、管理不在組合の現状

目黒区の調査からは、管理不全に繋がりかねない兆候が見て取れます。

まず基本的な体制として、管理組合が組織されていないマンションが約5%管理規約がないマンションも約5%存在します。

管理組合があっても活動が停滞しているケースも少なくありません。「役員の担い手不足」(28.1%)や「管理への関心の低さ」(21.1%)は活動停滞の主因です。ヒアリングでは役員の高齢化一部役員への負担集中、実質的な単独運営も報告されており、属人的な運営は機能不全リスクをはらみます。

相続等による権利関係の複雑化も、合意形成を困難にし、管理への関与を薄める可能性があります。

管理不全リスクと要支援マンション

管理組合の活動停滞や体制不備は、意思決定の停滞、計画修繕の遅延、居住環境の悪化、資産価値低下、空き家増加といった管理不全の悪循環を引き起こす可能性があります。

特に、以下のような特徴を持つマンションはリスクが相対的に高く、重点的な見守りや支援が必要と考えられます。

  • 高経年マンション(多額の修繕費用が必要)
  • 小規模マンション(担い手確保・専門知識獲得・資金力が困難)
  • 役員の担い手不足・高齢化が顕著なマンション
  • 修繕積立金が著しく不足しているマンション
  • 管理費等の滞納者が多いマンション
  • 管理組合が未組織、または長期間活動停止しているマンション

マンション管理士には、担当マンションや地域において、これらの兆候やリスクを早期に察知し、管理組合へ適切な助言や支援を行うことが期待されます。必要に応じて行政や他の専門家と連携し、問題解決への道筋を示す「課題解決型」の支援力が求められています。

5. 目黒区が用意する支援策と管理士の介入ポイント

目黒区では「目黒区マンション管理適正化推進計画」に基づき、管理組合を支援する施策を用意しています。マンション管理士はこれらを熟知し、管理組合の活用をサポートする役割が重要です。

目黒区の主な支援策と管理士の介入ポイントは以下の通りです。

管理計画認定制度

適切な管理計画を持つマンションを区が認定する制度です。認定により、市場での評価向上住宅ローン金利優遇固定資産税減税(マンション長寿命化促進税制)等のメリットが期待できます。

【管理士の介入ポイント】 管理組合へ制度を積極的に紹介し、認定取得に向けた計画作成・見直し、改善策提案、申請手続きをサポートします。新築向けの「予備認定制度」の情報提供も有効です。

マンション管理状況届出制度

都条例に基づき、旧耐震(昭和58年以前築)・6戸以上のマンションに管理状況の届出を求める制度です(目黒区が事務取扱)。区は実態を把握し、必要に応じ助言等を行います。

【管理士の介入ポイント】 対象管理組合へ趣旨を説明し、適切な届出を支援します。区からの助言等があった場合は、改善策を共に検討します。

管理適正化のための助言・指導・勧告

法・都条例に基づき、管理不全の恐れがあるマンションに対し、区が助言・指導・勧告を行う制度です。管理不全の未然防止と良好な住環境維持のためのセーフティネットです。

【管理士の介入ポイント】 助言等の対象となった場合、区との円滑なコミュニケーションや改善計画策定・実行を支援します。

情報提供・普及啓発

区はHP、メルマガ、冊子「住まいの情報」等で、管理に関する情報(標準管理規約、ガイドライン、防災マニュアル、助成制度等)を提供しています。

【管理士の介入ポイント】 区発信の情報をタイムリーに収集・伝達し、特に認知度の低い助成・支援制度は積極的に情報提供し、申請等をサポートすることで負担軽減に繋げます。

専門家による支援

区は、ニーズの高い専門家派遣やセミナー開催、管理組合同士の交流促進などを検討しています。

【管理士の介入ポイント】 区の制度活用を推奨するほか、管理士自身が派遣専門家やセミナー講師として活動することも有効です。

管理士は、これらの支援策を管理組合の状況に合わせて組み合わせ、最適な支援メニューを提案することが重要です。区と連携し、管理組合と行政の橋渡し役となることで、地域全体の管理水準向上に貢献できます。

6. マンション管理士が果たすべき現場での役割

目黒区のマンションが抱える高経年化、担い手不足、資金問題、管理不全リスクといった課題を踏まえ、マンション管理士には、これまで以上に積極的かつ多岐にわたる役割が期待されています。

管理の主体は管理組合であり、区分所有者の意識向上が基本です。管理士の重要な役割は、区分所有者の管理意識を高め、管理組合活動への参加を促すことです。

同時に、法律、会計、建築、設備等の専門知識に基づき、管理規約作成・改正、適正な会計処理指導、長期修繕計画策定・見直し助言、建物劣化診断の必要性判断など、的確なアドバイスを提供する必要があります。

また、管理不全の兆候を早期に発見し、予防的観点から対策を講じることも重要です。

特に高経年マンションでは、大規模修繕や建替えに関する合意形成支援が今後ますます重要になります。多様な意見を調整し、将来を見据えた最適な選択をサポートする専門性とコミュニケーション能力が不可欠です。

今後求められる「課題解決型」の支援力

これからの管理士には、アドバイザーに留まらず、管理組合が直面する複雑な課題に対し、具体的な解決策を提示し、実行を支援する「課題解決型」の支援力が強く求められます。

例えば、担い手不足には第三者管理方式導入支援やICT活用提案、資金不足にはコスト削減策助成金活用提案段階的な積立金値上げに向けた合意形成支援など、踏み込んだサポートが必要です。課題に応じて弁護士や建築士等と連携し、総合的にサポートするコーディネート能力も重要になります。

目黒区で活動する管理士の皆様には、本記事で示した現状と課題、行政の支援策を踏まえ、専門性と「課題解決型」の支援力を発揮し、地域社会の基盤であるマンションの適正管理と価値向上に貢献していただくことを期待しています。

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