東京都墨田区のマンション管理実態と管理士が果たすべき役割〜現状・課題・適正化への道筋〜

1.はじめに
近年、都市部を中心に分譲マンションの高経年化が急速に進行しています。東京都墨田区においてもその傾向は例外ではなく、築40年以上のマンションが増加し続けています。老朽化が進む中、建物の安全性や資産価値の維持が喫緊の課題となっています。
こうした状況を受け、墨田区では令和5年度に「マンション管理の適正化推進計画」を策定しました。この計画は、国が定める「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(改正マンション管理適正化法)」を受けたもので、区内マンションの管理水準を底上げし、将来にわたって住み続けられる住宅環境の維持を目的としています。
本記事では、墨田区が実施した現況調査の結果に基づき、分譲マンションの実態や管理上の課題を明らかにするとともに、管理士に求められる具体的な役割や支援の方向性について整理します。マンション管理士として、どのような支援が可能であり、何が求められているのか。その現場感覚を持ち、課題解決型の支援を展開する一助となることを目指します。
2.区内分譲マンションの実態
墨田区のマンションストック状況
墨田区内には、令和4年3月末時点で合計1,130棟の分譲マンションが存在しています。そのうち、築40年以上を経過しているものは約360棟(全体の約32%)に上り、高経年化の進行が顕著です。
建物構造別に見ると、多くのマンションが鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)で構成されています。階数としては5階建以下の中層マンションが過半数を占める一方、10階建以上の高層マンションも区内に点在しています。
マンションの分布を見ると、墨田区の中でも東部地域や駅周辺に集中しており、住宅密集地との調和や地域特性に配慮した管理・修繕が今後重要となってくることが読み取れます。
アンケートから見る管理組合の現状
墨田区が行った管理組合向けのアンケート調査(有効回答数223件)では、管理の実態として以下のような傾向が見られました:
- 管理者が選任されていないマンションが約10%存在
- 管理規約の未整備または旧法対応のままが20%以上
- 総会の開催が年1回以下または未実施の管理組合が10%超
これらの結果からは、形式的には組織を維持しているものの、実態としては十分に機能していない管理組合も少なくないことがわかります。特に、総会の開催頻度や管理規約の未整備は、管理不全リスクの初期兆候とも捉えられ、早期の支援介入が望まれる状況です。
墨田区では今後、こうした実態を踏まえた上で、管理水準の底上げを狙った施策の展開が求められており、マンション管理士にとっても介入余地の大きなフィールドとなることが想定されます。
3. 長期修繕計画と資金計画の実態
長期修繕計画の策定率
墨田区のアンケート結果によれば、長期修繕計画を作成しているマンションは全体の80.6%にのぼります。一方で、作成していないマンションは15.1%存在し、特に築30年以上のマンションに限ると、30.2%が長期修繕計画を作成していないという状況が明らかになっています。
また、長期修繕計画をすでに策定しているマンションであっても、その29.6%は10年以上見直しが行われておらず、現行の実情に即していない可能性がある点も課題とされています。
修繕積立金の計画・運用の課題
修繕積立金については、目立った不足や未設定の割合は低いものの、実態にはいくつかの問題が見受けられます。特に以下のような傾向が指摘されています。
- 小規模で築年数の長いマンションでは、長期修繕計画が未策定のままとなり、大規模修繕工事が未実施である割合が高い。
- 長期修繕計画に基づいて修繕積立金を見直す必要があるにもかかわらず、費用面の問題で実施が困難になっているケースが多い。
- 特に築30年以上の建物では、住民の高齢化による合意形成の困難さが、修繕の妨げになっている場合も少なくありません。
これらの状況から、資金計画の見直しと合意形成支援の両面での対策が急務となっています。
4. 顕在化する管理不全リスクと要支援マンション
墨田区内では、管理組合役員のなり手不足が52.1%のマンションで実感されているという調査結果が出ています。特に、築年数の浅いマンションでは「無関心な居住者」や「賃貸率の高さ」が原因とされる一方で、昭和59年以前に竣工したマンションでは、住民の高齢化による体力的な理由から役員の担い手が不足していることが主因となっています。
このような状況下では、以下のようなリスクが顕在化しています。
- 役員不在や総会未開催による意思決定の停滞
- 修繕・改修の計画が立てられず、建物の劣化が進行
- 外部委託先(管理会社)の不在や撤退により、管理業務が放置される
- 資金繰りの悪化により、大規模修繕の見送りが発生
また、管理会社が業務を請け負わないような高経年・小規模・自主管理のマンションも見られ、これらはすでに「要支援マンション」として捉えられる段階にあると言えます。
このようなマンションに対しては、専門家の介入が不可欠です。具体的には、マンション管理士の派遣や区による重点的なサポートを通じて、修繕計画の立案支援や住民への啓発活動を進めていく必要があります。
これらの実態を踏まえ、墨田区では将来的な老朽化マンションの増加を見据えた取り組みが急がれます。特に区による制度整備とマンション管理士による専門的支援の融合が、今後の適正な管理体制の鍵を握ると言えるでしょう。
5. 墨田区が用意する支援策と管理士の介入ポイント
墨田区では、マンションの老朽化や適正な管理体制の未整備などの課題に対応するため、さまざまな支援策を講じています。特に、問題を抱えるマンションに対しては、重点的な支援を行う体制が整えられています。
まず、大規模修繕や耐震化が進んでいないマンションに対しては、専門家の訪問による啓発と助言が実施されており、必要に応じてアドバイザーの派遣も行われています。実際、長期修繕計画を作成していないマンションや、昭和56年5月31日以前に建設された耐震診断・改修が未実施のマンションに対して、働きかけが進められています。
また、既存の支援制度の周知不足が課題とされており、無料相談会の開催や制度利用助成などを通じて、認知度向上と活用促進が図られています。
適正な管理組合運営の推進においては、アドバイザー制度や運営支援の活用が推奨され、特に管理不全マンションに対する早期の介入が重要視されています。さらに、適切な管理運営のための項目提示や、管理計画認定制度の導入により、区全体としての管理水準向上を目指しています。
加えて、防災面でも町会・自治会との連携を強化し、自主防災組織の結成や防災マニュアルの整備支援、防災備蓄倉庫の設置支援なども行われています。これらの取り組みは、マンションの物理的・制度的な脆弱性を同時に解消する複合的な支援策として機能しています。
このような施策の実施において、マンション管理士の専門知識が重要な役割を果たすことは言うまでもありません。
6. マンション管理士が果たすべき現場での役割
マンション管理士は、墨田区の管理適正化の取り組みにおいて現場の実務支援の要として期待されています。とりわけ、管理組合の自走が困難な状況においては、その役割の重要性が増しています。
例えば、総会や理事会の未開催、管理規約の未整備、長期修繕計画未策定などの状況にある要支援マンションは、管理士の助力なしには立て直しが困難なことが多いとされています。そのため、管理士は、管理者の選任、議事運営、規約改正、資金計画の見直しといった実務的な分野で支援を行う必要があります。
また、アドバイザーとしての役割も重視されており、区が行う無料相談会やアドバイザー制度の活用により、区民と直接的に関わる機会も増えています。こうした接点を通じて、管理士は区民との信頼関係を築きながら、専門家としての継続的な支援を提供することが求められます。
さらに、今後は管理計画認定制度の活用支援も重要な任務となっていくでしょう。認定制度の普及・推進には、制度の意義や要件を管理組合に丁寧に説明し、必要な準備や手続きをともに進める支援者の存在が不可欠です。
防災分野においても、マンションが町会・自治会と連携する際の調整役として、管理士が橋渡しを行うことも期待されています。管理士は、マンション内外の人間関係や合意形成の課題にも対応し、円滑な地域との連携を支援する力が求められています。
このように、墨田区においてマンション管理士は、「制度と現場の橋渡し役」かつ「持続可能なマンション管理の伴走者」として、広範な分野において活躍することが期待されております。
