埼玉県三郷市のマンション管理実態と管理士が果たすべき役割〜現状・課題・適正化への道筋〜

はじめに
埼玉県の南東部に位置する三郷市は、都心へのアクセスの良さから住宅都市として発展を続けてきました。現在、市の人口の約2割にあたる約3万人が分譲マンションに居住しており、マンションは市民にとって主要な居住形態の一つとなっています 。
しかし、その一方で建物の高経年化が深刻な課題として浮上しています。市内には高度経済成長期に建てられた大規模団地も存在し、令和4年1月時点で築40年を超える高経年マンションが約100棟にのぼります 。この数は10年後には約2倍の約200棟に増加すると見込まれており、建物の老朽化対策は待ったなしの状況です 。
このような背景から、国がマンション管理適正化推進法を改正し、地方公共団体の役割を強化したことを受け、三郷市でも令和6年3月に「三郷市マンション管理適正化推進計画」を策定しました 。この計画は、市内のマンション管理の現状と課題を明確にし、管理適正化に向けた具体的な施策を示すものです。
この記事では、「三郷市マンション管理適正化推進計画」で示されたデータを基に、市内のマンション管理のリアルな実態を解説します。そして、現場で活動するマンション管理士が、この状況をどう捉え、管理組合に対してどのように支援や介入を行うべきかを考察します。本稿が、マンション管理士の皆様にとって、地域における適正管理の担い手となるための実践的なヒントとなれば幸いです。
市内分譲マンションの実態
三郷市のマンションストック状況
まず、三郷市のマンションがどのような状況にあるのか、全体像を把握しましょう。令和4年1月時点で、市が把握しているマンションストックは251棟、13,803戸です 。
築年数別の内訳を見ると、築30年以上のマンションが194棟、8,652戸と大半を占めており、高経年化が顕著であることがわかります 。特に築40年以上のマンションは101棟、3,270戸にのぼり、計画的な維持管理や大規模修繕、さらには建替えといった課題が目前に迫っている管理組合が多数存在することがうかがえます 。
アンケートから見る管理組合の現状
三郷市が令和5年度に実施したアンケート調査からは、管理組合の運営状況が垣間見えます。この調査は市内の126組合を対象に行われ、71組合(回収率56.3%)から回答がありました 。
回答した組合の状況を見ると、基本的な管理体制は整っているようです。
- 管理組合の設立: 全てのマンションで設立済みです 。
- 総会の開催: 90.1%が年1回以上開催しています 。
- 管理規約の作成: 全てのマンションで作成済みです 。
- 管理者の選任: 87.3%が選任済みです 。
このように、多くの管理組合が基本的な運営の枠組みを維持している点は評価できます。しかし、その内実を見ると、多くの課題が潜んでいることも明らかになりました。
アンケートからわかる課題
管理組合が抱える課題として、最も多くの回答が寄せられたのは「区分所有者の高齢化」(54.9%)、次いで「役員のなり手不足」(36.6%)でした 。
これは全国的な傾向と同様ですが、三郷市においても、管理組合活動の担い手確保が深刻な問題となっていることを示しています。役員の高齢化や交代が進まないことは、管理運営の停滞に直結します。
さらに、「役員の多忙、知識・経験不足」(18.3%)といった回答も多く、専門的な知識が求められるマンション管理において、役員だけで対応することの限界が示唆されています 。これらの課題は、マンションの資産価値や居住環境の維持に直接的な影響を及ぼすため、専門家であるマンション管理士による外部からの支援が不可欠であると言えるでしょう。
長期修繕計画と資金計画の実態
マンションの資産価値を長期的に維持する上で、計画的な修繕とそれを裏付ける資金計画は生命線です。三郷市のアンケート調査からは、この重要な要素に関する管理組合の実態が見えてきます。
長期修繕計画の策定率
計画の策定状況については、多くの組合で意識の高さがうかがえます。
- 策定済み: 83.1%
- 作成中または作成予定: 12.7%
このように、回答した組合の9割以上が長期修繕計画の必要性を認識し、作成に取り組んでいることは非常にポジティブな結果です 。
しかし、課題はその「実効性」にあります。計画を策定済みの組合のうち、「見直していない」と回答した組合が27.1% にのぼりました 。また、国が推奨する7年以内の見直しを実施している組合は30.5%に留まっています 。
長期修繕計画は、一度作れば終わりではありません。社会情勢の変化による工事費の上昇や、建物の劣化状況に合わせて定期的に見直しを行わなければ、計画と実態が乖離し、いざという時に役立たない「絵に描いた餅」となってしまいます。ここに、マンション管理士が専門的知見から計画の見直しを働きかけ、その内容を精査する重要な役割があります。
修繕積立金の計画・運用の課題
資金面では、より深刻な課題が浮き彫りになりました。アンケートに回答した全ての組合が修繕積立金を徴収している一方で 、その運用状況については不安の声が上がっています。
積立金の状況について、「計画に比べて不足している」と感じている組合は約3割にのぼります。
- 計画に比べてやや不足: 18.3%
- 計画に比べて大幅に不足: 12.7%
将来の修繕工事費を賄えないリスクを抱える組合が相当数存在することを示唆しています。さらに、資金計画を揺るがす要因として、管理費等の滞納も見過ごせません。回答組合の42.3%で滞納住戸が「ある」と回答しており 、安定的な資金確保の障壁となっています。
市の相談会でも、設備の更新や機械式駐車場の維持費など、多額のコストに対する懸念が寄せられており 、当初の計画の甘さや、将来の費用増を見越した積立金設定の難しさがうかがえます。
顕在化する管理不全リスクと要支援マンション
役員のなり手不足、計画性の低い資金計画といった課題は、放置されれば「管理不全」という最悪の事態を招きます。アンケート結果からは、管理不全のリスクがすでに顕在化しつつあるマンションの姿が浮かび上がります。
特に、築30年近いにもかかわらず大規模修繕工事を一度も「実施したことがない」と回答したマンションが存在したことは、深刻に受け止めるべきです 。また、耐震性への不安も大きなリスクです。旧耐震基準で建てられたマンションのうち、耐震診断を実施していない管理組合が4件(棟数換算で25棟)あることも確認されました 。
こうした状況を踏まえ、三郷市はアンケート結果を基に、管理状況に応じた分類を行っています。その中で、管理組合の運営や修繕積立金の積立て等に課題があり、市の助言・指導の対象となりうる「要支援マンション」が19組合あると判断されました 。
これらのマンションは、管理者等が定められていなかったり、修繕積立金が適切に積み立てられていなかったりするなど、すでに管理運営に支障をきたしている可能性が高いと考えられます 。
管理不全は、居住者の生活環境を悪化させるだけでなく、外壁の剥落などによって周辺地域へ危害を及ぼす可能性もはらんでいます 。このような事態を防ぐため、「要支援マンション」に対する積極的な働きかけと、専門家による早期の介入が急務となっています。
三郷市が用意する支援策と管理士の介入ポイント
三郷市では、マンション管理の適正化を後押しするため、様々な支援策を用意しています 。これらの制度を管理組合が有効に活用できるよう、マンション管理士が橋渡し役となることが期待されます。
- マンション管理士による相談会・セミナー 市は、専門家であるマンション管理士による無料相談会や、管理組合運営の知識向上を目的としたセミナーを定期的に開催しています 。しかし、アンケートでは相談会について約2割、セミナーについては約2割の組合が「知らなかった」と回答しており、制度が十分に浸透していない実態があります 。管理士は、顧問契約のある組合はもちろん、様々な機会を通じてこれらの支援策を周知し、参加を促すことが第一の介入ポイントです。
- 管理計画認定制度の活用支援 市の計画の柱の一つが「管理計画認定制度」の推進です 。この制度は、適切な管理計画を持つマンションを市が認定するもので、組合の意識向上や市場価値の維持に繋がります 。アンケートでは、約5割の組合が「内容を知りたい」と回答しており、関心の高さがうかがえます 。管理士は、この制度のメリットを具体的に説明し、申請に必要な長期修繕計画の策定・見直しや、管理規約の整備などを専門家としてサポートすることで、組合の管理水準を大きく引き上げることができます。
- 各種補助事業の案内 市は、旧耐震基準のマンションを対象とした「耐震診断補助事業」を実施しています 。しかし、対象となる組合のうち半数近くがこの制度を「知らなかった」と回答しています 。管理士は、対象となるマンションに対して積極的に情報提供を行い、補助金の活用を促すことで、建物の安全性向上に直接的に貢献できます。また、埼玉県が実施するアドバイザー派遣事業など、広域的な支援策についても情報を提供し、活用を支援することが重要です 。
マンション管理士が果たすべき現場での役割
三郷市の現状と行政の施策を踏まえると、これからのマンション管理士には、従来の受け身のコンサルティングに留まらない、「課題解決型」の積極的な支援が求められます。
管理組合が抱える「役員のなり手不足」や「知識・経験不足」といった課題に対し、管理士は単なる助言者ではなく、組合運営のパートナーとして伴走する姿勢が不可欠です 。具体的には、総会や理事会の運営をサポートし、円滑な合意形成をファシリテートする能力が問われます。
特に、市が「要支援マンション」と位置づけた19の組合に対しては、課題を抱える管理組合へ積極的にアプローチし、問題点を可視化し、改善に向けた具体的な道筋を示すことが、地域の専門家としての社会的責務と言えるでしょう 。
市のアンケートで明らかになった「修繕積立金の不足」や「長期修繕計画の見直し不足」といった資金計画の課題は、管理士の専門性が最も発揮される領域です 。現実的な資金計画の立案や、将来的な負担増に関する区分所有者への丁寧な説明を通じて、マンションの資産価値を維持するための具体的な処方箋を描くことが求められます。
まとめると、三郷市で活動するマンション管理士は、市の推進計画を羅針盤として活用し、行政の支援策と管理組合のニーズを繋ぐハブとしての役割を担うことが重要です。個々のマンションが抱える課題に寄り添い、専門知識を駆使して解決へと導くことで、地域全体の居住環境の維持・向上に貢献していくことが、今まさに期待されているのです。
