東京都足立区のマンション管理実態と管理士が果たすべき役割〜現状・課題・適正化への道筋〜

はじめに

足立区では近年、築年数30年以上の高経年マンションの増加が深刻な課題となっています。1980年代以前に建設されたマンションは、耐震性の不足や設備の老朽化に加えて、管理体制の弱体化も大きな懸念材料となっています。

こうした状況を受けて、足立区では平成29年度に区内の分譲マンションに対する実態調査を実施しました。この調査結果を踏まえ、区は「マンション管理の適正化推進計画」の策定を進めています。行政の施策だけでは限界があるなかで、マンション管理の適正化においては専門家である管理士の関与が欠かせない存在となっています。

本記事では、足立区のマンション管理の現状と課題を整理しながら、今後管理士が果たすべき役割と行動指針について明らかにしてまいります。地域のマンションを持続可能な資産として維持していくために、管理士がどのような視点と働きかけを行うべきか、具体的なヒントを提供することを目的としています。

市内分譲マンションの実態

足立区のマンションストック状況

平成29年度の調査によりますと、足立区には1,043棟・58,777戸の分譲マンションが存在しています。これは区内住宅の大きな割合を占めており、都市基盤や地域社会のあり方にも深く関わる重要なストックです。

築年数ごとの棟数の分布は以下のとおりです。

  • 1981年以前に建設された棟数:145棟(約14%)
  • 1982年以降に建設された棟数:898棟(約86%)

この結果から、すでに築36年以上を経過したマンションが全体の1割以上を占めていることがわかります。今後、この割合はさらに増加することが見込まれており、マンションの老朽化にどう対応していくかが、足立区のまちづくりにおける大きな課題となっています。

また、マンションの立地については、次のような傾向があります。

  • 駅から500メートル圏内に立地する棟数:573棟(55%)
  • その居住戸数:34,143戸(58%)

利便性の高いエリアにマンションが集中している一方で、老朽化による資産価値の低下や居住環境の悪化リスクも抱えていることが見て取れます。

構造面では、大多数が鉄筋コンクリート造(RC造)または鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)で建設されています。これらは構造的な耐久性には優れていますが、管理の質が建物の寿命や資産価値を大きく左右することは言うまでもありません

アンケートから見る管理組合の現状

足立区が実施したアンケート調査では、区内の管理組合の活動状況や体制にばらつきがあることが明らかになりました。とくに築年数が古く、小規模なマンションにおいては、活動の停滞や管理者の不在といった課題が顕在化しています。

アンケート結果の主要項目は以下のとおりです。

  • 管理規約が整備されている割合:89%
  • 総会を年1回以上開催している割合:86%
  • 管理者が選任されている割合:93%

一見すると高い水準に見えますが、築年数が古くなるにつれて、これらの項目の達成率は低下する傾向にあります。さらに、総会は形式的に開催されているものの、実質的な意思決定がなされていないケースも少なくありません。

管理形態にも世代ごとの差が見られます。

  • 1994年以降に建設された大規模マンションの100%が管理会社に委託
  • 1981年以前に建設された小規模マンションでは自主管理の割合が高い

新しいマンションでは管理会社の関与が当たり前となっている一方で、高経年かつ小規模なマンションほど住民の自主的な管理に頼っており、ノウハウや人手の不足が深刻な問題となっています

このように、足立区の分譲マンションには多様な管理実態が存在しており、一律の支援策では対応が難しいことが浮き彫りになっています。だからこそ、管理士による現場密着型の支援と個別対応が不可欠であるといえるでしょう。

長期修繕計画と資金計画の実態

マンションの適正な維持管理には、長期的な視点に立った修繕計画の策定と、それに基づく資金計画が欠かせません。足立区が行った調査結果からも、その重要性が再確認されています。

調査によりますと、長期修繕計画を策定している管理組合の割合は83%と比較的高い水準にあります。多くの管理組合が将来を見据えた修繕の必要性を理解し、計画的に対応しようとしていることがうかがえます。

しかし一方で、その内容や実効性には課題が残されています。たとえば、修繕周期が実態と合っていなかったり、計画上の工事費が過小に見積もられていたりするケースも少なくありません。とくに、築年数が30年を超えるマンションでは、給排水管や外壁など大規模な修繕が必要となる時期に差しかかっており、計画と実態のギャップが資金不足という形で顕在化する可能性が高くなっています

また、資金面では以下のような傾向が見られました。

  • 修繕積立金が計画的に積み立てられている割合:72%
  • 積立金の水準が「足りていない」と回答した組合:全体の27%
  • 現在の積立水準が「適正」と答えた組合:58%

つまり、多くの組合が一定の積立は行っているものの、計画どおりに積み立てが進んでいないケースが約3割存在していることになります。これは今後の大規模修繕の実施に大きな不安材料となります。

さらに、戸数が少ない小規模マンションほど1戸あたりの負担が大きくなるため、住民間の合意形成が難航しやすいという構造的な問題もあります。高齢化や住民の入れ替わりにより、将来への危機感が共有されにくくなっている点も見逃せません。

このように、計画はあるが実行性に欠ける「形骸化した長期修繕計画」の存在こそが、今後の大きなリスクとなっているのです。

顕在化する管理不全リスクと要支援マンション

調査では、管理活動が停滞している、または実質的に管理が行われていないマンションの存在が明らかになりました。こうした「管理不全マンション」は、単に建物の老朽化を加速させるだけでなく、住民トラブルや周辺環境の悪化など、地域全体への悪影響を及ぼすリスクがあります。

具体的には、次のような状況が報告されています。

  • 管理者が選任されていない管理組合の割合:7%
  • 総会が開催されていない組合の割合:14%
  • 管理規約が未整備または不備がある組合:11%

これらの割合は決して無視できるものではなく、特に高経年マンションや自主管理の小規模物件で割合が高くなる傾向にあります。

さらに、管理組合そのものが活動を停止していたり、機能していないとされるマンションも一部で確認されており、こうしたマンションは「要支援マンション」として特別な対処が必要とされています。

要支援マンションの特徴としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 住民同士のコミュニケーションが希薄
  • 総会が長年開催されていない
  • 長期修繕計画が未策定または著しく古い
  • 管理費・修繕積立金の滞納が多い

これらはすべて、管理不全の兆候であり、早急な専門的支援が求められる領域です。現状を放置すれば、建物の物理的な劣化だけでなく、財務・法務・人的なトラブルも増加し、マンション全体の資産価値が著しく下がるおそれがあります。

とりわけ、自主管理にこだわってきた管理組合においては、ノウハウや体力の限界を迎えつつあるのが実情です。そのため、外部の専門家であるマンション管理士による介入が極めて重要になってきます。

管理不全の初期兆候を早期に察知し、管理者の選任や総会の正常化、長期修繕計画の見直しを促すことが、今後のマンション再生の鍵を握るといえるでしょう。

足立区が用意する支援策と管理士の介入ポイント

足立区では、マンションの高経年化と管理不全のリスクを背景に、行政としての支援体制を整備しています。平成29年度の実態調査を踏まえ、区は「分譲マンション実態調査報告書」に基づき、今後の支援策の方向性を明確に打ち出しました。

まず注目すべきは、専門家派遣事業の強化です。管理不全が疑われるマンションや、管理組合が機能していない物件に対して、区は管理士などの専門家を派遣し、現状把握から課題の整理、解決策の提案までを行っています。

また、相談窓口の常設化も進められています。管理組合の役員や区民からの相談を受け付け、必要に応じて専門家によるアドバイスや資料提供を行っています。

さらに、区はマンション管理に関するセミナーや勉強会を定期的に開催し、住民自身の意識改革や情報共有を図っています。

こうした支援制度のなかで、管理士が果たすべき役割はますます重要になっています。行政支援の入口となる現地調査やヒアリングの場に立ち会い、技術的・法的な助言を行うことで、支援の実効性が大きく左右されるのです。

また、制度が整っていても、現場での対話や合意形成が進まなければ課題解決には至りません。その意味でも、中立的かつ専門的な立場で住民に寄り添う管理士の介入は不可欠であるといえます。

マンション管理士が果たすべき現場での役割

マンション管理士の活動領域は、単なるアドバイザーにとどまりません。とくに足立区のように、高経年マンションや管理不全のリスクが高まるエリアにおいては、現場に根ざした課題解決型の支援力が求められています

第一に求められるのは「診断力」です。マンションの物理的な劣化状況だけでなく、管理組合の体制、住民間の関係性、資金計画の健全性など、多角的な視点から「何が問題なのか」を見抜く力が必要です。

次に重要なのが「合意形成のファシリテート力」です。管理士は、住民間の利害調整や役割分担の支援を行いながら、意見が対立しやすい局面でも冷静に話し合いを導くスキルが求められます。

また「制度運用の実践力」も欠かせません。たとえば、長期修繕計画の見直しや管理規約の改正、管理委託契約の見直しなど、法令や制度に基づいた具体的な改善策の提示と実行支援が管理士の専門領域です。

とくに「管理者がいない」「総会が開けない」「修繕積立金が枯渇している」といった深刻なケースでは、管理士が主導して段階的な改善プランを提示し、再建に向けて伴走することが求められます。

今後は、単なる制度説明や助言にとどまらず「成果を出す」管理士が評価される時代に入っています。現場で汗をかき、住民と信頼関係を築きながら、ひとつひとつの問題を丁寧に解決していく姿勢が、地域のマンション再生を支える原動力となるでしょう。

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