埼玉県戸田市のマンション管理実態と管理士が果たすべき役割〜現状・課題・適正化への道筋〜

1. はじめに

埼玉県戸田市では、多くの分譲マンションが建設後、相応の年数を迎え、いわゆる高経年化が進んでいます。これは、建物の老朽化だけでなく、区分所有者の高齢化や賃貸化の進展といった、マンション管理における複合的な課題を顕在化させています。

このような状況を踏まえ、国が「マンション管理適正化法」を改正し、地方公共団体による積極的な役割発揮を促している中、戸田市でも「戸田市マンション管理適正化推進計画」(以下「推進計画」と表記します)が策定されました。この推進計画は、市内のマンション管理の現状と課題を明確にし、管理水準の向上と良好な居住環境の確保を目指すものです。

この記事では、戸田市の推進計画及び関連調査報告書を基に、市内の分譲マンションが直面する実態と課題を明らかにします。そして、これらの情報を踏まえ、現場で活動するマンション管理士の皆様が、今後どのように管理組合への支援や介入を行っていくべきか、具体的な方向性を考察します。本記事が、マンション管理士として、地域における適正管理の担い手となるための実践的なヒントを提供し、皆様の活動の一助となることを目的としています。

2. 市内分譲マンションの実態

戸田市が実施した「分譲マンション実態調査」(以下「実態調査」と表記します)及び推進計画からは、市内のマンションストックの特性や管理組合が抱える課題が具体的に見えてきます。

戸田市のマンションストック状況

戸田市内には、令和2年1月1日時点で268団地、総戸数16,328戸の分譲マンションが存在します。これは、市の全世帯数の約4分の1にあたる世帯が分譲マンションに居住している計算となり、市民の主要な居住形態として定着していることがわかります。

築年数別に見ると、最も多いのが1991年~2000年竣工のマンションで、全体の40.4%を占めています。次いで2001年~2010年竣工が22.7%となっており、これらのマンションは今後10年~20年で築30年超を迎えることになります。

また、共同住宅の構造については、非木造が88.9%、木造が11.1%となっています。

総戸数規模では、60戸未満の小規模なマンションが約74%を占め、特に20戸~39戸のマンションが40.4%と最も多くなっています。

アンケートから見る管理組合の現状

実態調査におけるアンケート結果(回答数123件)からは、管理組合の運営状況の一端が明らかになりました。

まず、管理組合の有無については、90.2%が「ある」と回答しており、ほとんどのマンションで管理組合が組成されています。

総会の開催頻度については、「年に1回」開催しているマンションが90.2%と大半を占め、定期的な開催が確認できます。役員会・理事会の開催頻度も、「年に数回」が56.9%、「月に1回程度」が40.7%となっており、こちらも定期的に開催されているマンションが多いことがわかります。

管理規約の有無については、97.6%が「ある」と回答しており、マンション管理の基本ルールは整備されていると言えます。

アンケートからわかる課題

一方で、アンケートからはマンション管理における様々な課題も浮き彫りになっています。

マンションを良好に管理する上での問題点(複数回答)として最も多かったのは、「特に問題があると考えていない」(52.8%)でしたが、次いで、

  • 「管理への関心が低く非協力的な居住者が多い」(10.6%)
  • 「管理組合の役員のなり手がいない」(10.6%)
  • 「役員が多忙もしくは知識・経験が少なく十分な対応ができない」(8.1%)
  • 「外国人とのコミュニケーションに困ることがある」(7.3%) といった声が挙がっています。

これらの課題は、区分所有者の高齢化や価値観の多様化、賃貸化の進行といった社会構造の変化と深く結びついており、管理組合運営の難易度を高める要因となっていると考えられます。特に、役員のなり手不足や専門知識の不足は、管理不全を引き起こすリスクを高めるため、外部専門家であるマンション管理士の積極的なサポートが求められる領域と言えるでしょう。

3. 長期修繕計画と資金計画の実態

マンションの資産価値を維持し、快適な居住環境を長期にわたって保つためには、計画的な修繕の実施と、そのための資金計画が不可欠です。戸田市の実態調査からは、これらの点に関する現状と課題が見えてきます。

長期修繕計画の策定率

実態調査のアンケートによれば、長期修繕計画を「作成している」と回答した管理組合は84.6%でした。これは、多くの管理組合が計画修繕の重要性を認識し、具体的な計画を立てていることを示しています。

しかし、国の調査(平成30年度マンション総合調査)における全国平均の作成率90.9%と比較すると、やや低い傾向にあります。また、「作成していない」が4.1%、「作成中または作成予定がある」が6.5%、「わからない」が2.4%存在しており、まだ全てのマンションで長期修繕計画が整備されているわけではないことがわかります。

修繕積立金の計画・運用の課題

長期修繕計画と並んで重要なのが、修繕積立金の適切な計画と運用です。アンケート結果では、修繕積立金の額について「不足している」と感じている管理組合が34.1%に上りました。「問題はない」と回答したのは57.7%、「わからない」が6.5%でした。

この背景には、長期修繕計画が作成されていないマンションでは、修繕積立金の額が不足している割合がやや高いという傾向が見られることがあります。計画的な積み立てが行われていない場合、将来的に大規模修繕工事の際に資金不足に陥るリスクが高まります。

ヒアリング調査では、「3回目の大規模修繕時に費用が不足する場合が多い」との意見や、「分譲当時に長期修繕計画がなかったため計画的な積み立てができておらず、修繕積立金が不足している」といった声も聞かれました。また、機械式駐車場のメンテナンス費用や利用率の低下、物価上昇による工事費用の増加なども、資金計画を圧迫する要因として挙げられています。

これらの状況は、マンション管理士が専門的な知見を活かし、長期修繕計画の策定支援や見直し、修繕積立金の適切な設定や運用についてアドバイスを行うことの重要性を示唆しています。

4. 顕在化する管理不全リスクと要支援マンション

マンションの高経年化や区分所有者の高齢化が進む中で、一部のマンションでは管理組合の活動が停滞し、管理不全に陥るリスクが顕在化しています。

活動停滞、管理不在組合の現状

戸田市が実施した実態調査では、アンケートへの回答率は49.8%であり、約半数のマンションの管理状況が直接把握できていません。市は、アンケートへの回答がなかったマンションには、管理組合の実態がない、または管理組合活動が停滞しているマンションが存在する可能性があると考えています。

また、アンケート調査の過程で、管理組合のポストがないなどの理由で市からの郵便物が不達となったマンションも一部存在しました。これらのマンションは、行政からの情報提供や支援が届きにくく、管理不全の兆候があっても発見が遅れる可能性があります。

調査結果からみた管理不全の兆候があるマンションの特性としては、

  • 築年数がやや古く、比較的小規模なマンションが多い傾向
  • アンケート回答率も低い傾向 が挙げられています。

さらに、アンケートの回答がなかったマンションは平均総戸数が少なく、特に総戸数19戸以下の小規模マンションのアンケート回答率が最も低いという結果も出ています。

これらの状況は、管理組合の機能不全が建物の適切な維持管理を困難にし、結果として居住環境だけでなく、周辺地域の住環境にも悪影響を及ぼすリスクをはらんでいます。マンション管理士としては、こうした管理不全に陥りやすいマンションの特性を理解し、早期の段階で適切な助言や支援を行うことが、問題の深刻化を防ぐ鍵となります。特に、連絡が取りづらい小規模・高経年のマンションに対して、どのようにアプローチしていくかが今後の課題と言えるでしょう。

5. 戸田市が用意する支援策と管理士の介入ポイント

戸田市では、「戸田市マンション管理適正化推進計画」に基づき、分譲マンションの管理水準の向上と、管理不全に陥るマンションの未然防止を目指し、多角的な支援策を展開しています。これらの支援策は、マンション管理士にとって、専門性を活かして管理組合をサポートする絶好の機会となります。

戸田市が計画している主な支援策として、まず継続的な実態把握が挙げられます。アンケート未回答のマンションへの再調査や、市との連絡窓口がないマンションの把握に努め、必要に応じて個別の支援を行うとしています。マンション管理士は、市からの調査協力依頼があった際に管理組合を適切に導いたり、市との連携窓口としての役割を担うことが考えられます。

次に、セミナーや相談会の拡充です。市は、マンション購入検討者や区分所有者向けに、管理に関する基礎知識の提供や相談対応の機会を増やしていく方針です。管理士は、これらのセミナーで講師を務めたり、相談員として専門的なアドバイスを提供することで、市民の意識啓発に貢献できます。また、管理組合に対し、これらの機会の積極的な活用を促すことも重要です。

マンションアドバイザー派遣制度の活用と市独自の制度創設の検討も進められます。特に長期修繕計画の作成・見直し支援は重要視されており、管理士がアドバイザーとして派遣され、専門的知見から直接的な支援を行う場面が増えるでしょう。管理組合がこの制度を円滑に利用できるよう、申請のサポートや事前の課題整理を手伝うことも管理士の役割です。

また、管理計画認定制度の運用と利用促進も大きな柱です。市は認定手数料を徴収しない方針を示しており、認定取得を目指す管理組合が増えることが期待されます。マンション管理士は、認定基準に適合するための管理規約の見直し、長期修繕計画の整備、総会運営の適正化など、申請準備段階から管理組合をトータルでサポートし、認定取得に導く重要な役割を担います。

さらに、旧耐震基準マンションの耐震化促進や、新築マンションを対象とした予備認定制度の周知マンションの防災・減災対策支援なども行われます。これらの分野でも、耐震診断や改修に関する合意形成のサポート、防災マニュアル作成支援など、管理士の専門知識が活かせる場面は多岐にわたります。

6. マンション管理士が果たすべき現場での役割

建物の高経年化、区分所有者の高齢化と価値観の多様化、そして複雑化する法制度や技術的課題など、現代のマンション管理はますます専門的な対応を必要としています。このような状況下で、マンション管理士に求められる役割は、従来の事務的なサポートを超え、より積極的かつ専門的な「課題解決型」の支援力へとシフトしています。

まず基本となるのは、管理組合の主体的な運営を支えることです。推進計画の基本理念にも「主体性ある管理組合によるマンション管理適正化の実現」が掲げられている通り、管理士はあくまで管理組合の良きアドバイザーであり、伴走者であるべきです。その上で、山積する課題に対し、専門知識と経験を駆使して解決の道筋を示すことが期待されます。

具体的には、合意形成の促進者としての役割がますます重要になります。意見がまとまりにくい大規模修繕工事の実施や管理費・修繕積立金の値上げといった重要事項において、客観的なデータと専門的知見に基づき、区分所有者間の丁寧なコミュニケーションを促し、円滑な意思決定をサポートする能力が求められます。

また、法律、会計、建築設備などに関する高度な専門家として、管理組合が抱える具体的な問題に対し、的確な診断と処方箋を提示する役割も不可欠です。市の支援制度や法改正の内容を分かりやすく解説し、管理組合がそれらを最大限に活用できるよう橋渡しをすることも重要です。

さらに、管理不全の兆候が見られるマンションや、小規模で役員のなり手が不足しがちなマンションに対しては、潜在的なリスクを早期に発見し、予防的な対策を提案する「プロアクティブな関与」も求められるでしょう。市が把握しきれない現場の細かな情報を吸い上げ、必要に応じて行政と連携しながら、深刻な事態に陥る前に対処していく視点が重要です。

良好なコミュニティ形成への支援も、これからのマンション管理士が担うべき役割の一つです。ヒアリング調査でも、住民間の交流促進や地域コミュニティとの連携を望む声が聞かれました。管理組合活動への参加意識の向上や、災害時の共助体制構築にも繋がるため、イベント開催の提案や、ルール作りのサポートなどを通じて、住みよいマンション環境づくりに貢献することが期待されます。

マンション管理士がこれらの役割を主体的に果たしていくことで、個々のマンションの管理適正化はもちろん、戸田市全体の住環境の質の向上に貢献できるはずです。

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