東京都小金井市のマンション管理実態と管理士が果たすべき役割〜現状・課題・適正化への道筋〜

はじめに
東京都小金井市では、多くの分譲マンションが建設され、市民の主要な居住形態の一つとなっています。しかしながら、これらのマンションも経年とともに老朽化が進行し、適切な維持管理や修繕が喫緊の課題となっています。
このような状況を受け、国や東京都はマンション管理の適正化を推進するための法整備や施策を進めています。小金井市においても、市内に200棟以上のマンションが存在し、建物の老朽化や住民の高齢化が懸念されています。これに対し、国及び東京都と連携し、計画的なマンション管理の適正化施策を推進していく必要性が高まっています。
この記事では、小金井市における分譲マンションの管理実態と課題を明らかにするとともに、今後、現場で活動するマンション管理士が、どのように支援や介入を行うべきかを考察します。そして、マンション管理士として、地域における適正管理の担い手となるための実践的なヒントを提供することを目的とします。
市内分譲マンションの実態
小金井市のマンションストック状況
小金井市における分譲マンションの現状を把握するため、戸数・棟数・築年数・建物構造の内訳を見ていきましょう。
平成23年3月時点で、小金井市内には179件の分譲マンションが存在するとされています。これらのマンションは、市の主要な居住形態として重要な役割を担っています。
築年数については、平成23年の調査によると、平成2年以前(築35年以上)のものが46.9%にのぼります。
総戸数では、多様な規模のマンションが存在しますが、29戸以下が40.8%を占めます。
これらのデータから、小金井市には比較的新しいマンションが多いものの、築30年を超えるマンションも一定数存在し、今後ますます高経年化が進むことが予測されます。
アンケートから見る管理組合の現状
平成23年の実態調査では、管理組合へのアンケートも実施されており、管理組合の運営実態が明らかになっています。
総会開催状況については、多くの管理組合で定期的に総会が開催されています。昨年度の総会開催回数は、「1回」が69.9%、「2回」が23.7%でした。これは、管理組合の基本的な意思決定が機能していることを示唆しています。
管理規約の整備状況については、管理規約を有している管理組合がほとんどです。また、標準管理規約に準拠していると回答した管理組合は66.3%にのぼります。
管理者の選任状況については、ほとんどの管理組合で理事長が選任されています。
アンケートからわかる課題
一方で、アンケート結果からは、管理組合が抱える課題も見えてきます。
管理組合役員のなり手不足や入居者の高齢化は、それぞれ21.4%の管理組合が問題点として挙げており、深刻な課題となっています。役員の選出方法として「輪番制」が79.6%と最も多いことからも、役員の負担感や担い手不足が背景にあると考えられます。
また、建物の老朽化も20.4%の管理組合が課題として認識しており、計画的な修繕の必要性が高まっています。
その他、「非協力的な居住者が多い」(9.2%)、「住戸の賃貸化が多い」(7.1%)、「管理費等の滞納が多い」(4.1%)といった課題も挙げられており、コミュニティ形成の難しさや管理費徴収の問題も存在していることが明らかになりました。
これらの課題は、マンションの適正な維持管理を困難にし、将来的には管理不全に陥るリスクを高める可能性があります。マンション管理士には、これらの課題解決に向けた専門的なアドバイスや支援が期待されます。
長期修繕計画と資金計画の実態
マンションの資産価値を維持し、快適な居住環境を長く保つためには、建物の経年劣化に対応するための長期修繕計画の策定と、それに基づく修繕積立金の計画的な積み立てが不可欠です。しかし、小金井市のマンションにおいては、これらの点で課題を抱えているケースが見られます。
長期修繕計画の策定率
平成23年の「小金井市分譲マンション実態調査報告書」によると、長期修繕計画の作成状況は以下の通りです。
- 作成しており、有効な計画: 59.2%
- 作成してあるが、見直しが必要: 24.5%
- 作成していないが、作成予定: 5.1%
- 作成していない: 6.1%
- わからない: 2.0%
約6割の管理組合が有効な長期修繕計画を作成しているものの、見直しが必要なものを含めると8割以上が計画自体は保有しています。しかし、約1割強のマンションでは、計画が作成されていない、あるいはその存在を把握していないという状況です。
特に、築年数が経過したマンションや小規模なマンションにおいて、計画の未作成や見直しの遅れが見られる傾向があります。長期修繕計画の策定と定期的な見直しは、マンション管理士による積極的な働きかけが求められる領域です。
修繕積立金の計画・運用の課題
長期修繕計画が策定されていても、その実行性を担保するのは修繕積立金です。アンケート調査によれば、修繕積立金について何らかの問題を抱えている管理組合も少なくありません。
修繕積立金の積立状況については、
- 適正である: 64.1%
- 不足している: 27.2%
- 余剰がある: 4.3%
となっており、約3割近いマンションで修繕積立金が不足していると認識されています。この背景には、分譲時の設定金額のまま見直されていない、あるいは長期修繕計画に基づかない金額設定がされているケースなどが考えられます。
また、大規模修繕工事を行う上での問題点として、「修繕積立金の不足」を挙げた管理組合は20.4%、「大規模修繕工事に関する知識・経験の不足」は28.6%にのぼります。適切な資金計画と、それを実行するための合意形成支援が、マンション管理士には期待されます。
顕在化する管理不全リスクと要支援マンション
マンションの高経年化や居住者の高齢化、賃貸化の進行は、管理組合の機能低下を招き、管理不全のリスクを高めます。小金井市においても、こうした課題は顕在化しつつあります。
活動停滞、管理不在組合の現状
平成23年の調査では、管理組合の運営上の問題点として、「管理組合役員のなり手がいない」(21.4%)、「入居者の高齢化」(21.4%)が上位に挙げられています。役員の高齢化や担い手不足は、理事会の開催頻度の低下や総会の出席率の低迷につながり、管理組合活動の停滞を招く恐れがあります。
実際に、理事会の開催回数が年間0回であったり、総会の出席率(委任状を除く)が極端に低いマンションも散見されます。こうした状況が続けば、必要な意思決定が行われず、適切な維持管理が困難になる「管理不在」の状態に陥りかねません。
「小金井市マンション管理適正化推進計画」においても、高経年マンションほど、居住者の高齢化、賃貸住戸化や空き住戸の増加等が進み、管理組合の活動が不活発となる傾向が指摘されています。
管理不全は、建物の老朽化を加速させるだけでなく、防犯性の低下や衛生環境の悪化など、居住者のみならず周辺地域へも悪影響を及ぼす可能性があります。早期の段階で管理不全の兆候を把握し、適切な支援を行うことが重要です。マンション管理士は、管理組合の運営状況を診断し、活動停滞の予防や改善策を提案する役割を担います。
小金井市が用意する支援策と管理士の介入ポイント
小金井市では、マンションの管理適正化を推進するため、様々な支援策を計画・実施しています。マンション管理士はこれらの支援策を理解し、管理組合が適切に活用できるよう橋渡しをすることで、専門性を発揮できます。
小金井市の「マンション管理適正化推進計画」では、主に以下の3つの目標を掲げ、具体的な施策を展開しています。
-
管理組合による自主的かつ適正な維持管理の推進:
- 市は、マンション管理の重要性や方法等についての周知、管理状況等の把握及び管理不全の予防に取り組みます。具体的には、東京都が作成した「マンション管理ガイドブック」や「マンション再生ガイドブック」などの情報提供、制度等の周知を図ります。
- 【管理士の介入ポイント】: 管理組合に対し、これらのガイドブックを用いた勉強会の開催を提案したり、管理の現状評価と課題整理を支援したりすることが考えられます。また、市が定める「小金井市マンション管理適正化指針」に沿った運営が行えるよう助言することも重要です。
-
管理状況届出制度等を活用した適正な維持管理の促進:
- 東京都の「マンションの適正な管理の促進に関する条例」に基づく管理状況届出制度を活用し、市内のマンションの管理状況の把握を進めます。届け出られた情報に基づき、必要に応じて助言・支援や指導・勧告を行います。
- 【管理士の介入ポイント】: 管理組合がスムーズに管理状況の届出を行えるようサポートするほか、届出をきっかけとして管理状態の「見える化」を行い、改善点を具体的に示すことができます。市からの助言や指導があった場合には、その内容を理解し、対応策を検討する上での専門家としての役割が期待されます。
-
管理の良好なマンションが適正に評価される市場の形成:
- 「マンション管理計画認定制度」の普及啓発を図り、管理水準の維持向上や地域価値の向上を目指します。この制度は、管理組合が作成した管理計画が一定の基準を満たす場合に市が認定するものです。
- 【管理士の介入ポイント】: 管理組合が「マンション管理計画認定制度」の認定を取得するための申請支援や、認定基準を満たすための管理規約の見直し、長期修繕計画の策定・更新支援などが具体的な介入ポイントとなります。認定取得は、マンションの資産価値向上にも繋がるため、そのメリットを丁寧に説明し、合意形成を促すことが重要です。
その他、市は東京都と連携し、「マンション管理アドバイザー制度」(マンション管理士や建築士等の専門家派遣)の周知・利用促進や、設計図書・修繕履歴等の保管の徹底を促す「マンションみらいネット」の活用を推進しています。これら行政の支援策を管理組合に的確に伝え、活用を促すこともマンション管理士の重要な役割です。
マンション管理士が果たすべき現場での役割
今後、マンション管理士には、単に法律や規約に関するアドバイスを行うだけでなく、より能動的かつ実践的な役割が求められます。特に重要となるのが、「課題解決型」の支援力です。
小金井市のマンションも、高経年化、役員のなり手不足、修繕積立金不足、コミュニティの希薄化など、多様な課題に直面しています。これらの課題は個々のマンションの状況によって複雑に絡み合っており、画一的な対応では解決が困難です。
マンション管理士は、まず専門家としての深い洞察力をもって、各マンションが抱える潜在的・顕在的な課題を的確に把握する必要があります。そのためには、管理組合の運営状況、建物・設備の劣化状況、長期修繕計画や財務状況などを多角的に分析し、問題の本質を見抜く力が求められます。
次に、把握した課題に対して、具体的な解決策を複数提示し、それぞれのメリット・デメリットを分かりやすく説明する提案力が重要です。例えば、修繕積立金が不足している場合、積立金の値上げだけでなく、修繕計画の見直し、共用部分の収益化、補助金制度の活用など、多角的な視点からの提案が考えられます。
そして最も重要なのが、合意形成を円滑に進めるためのコミュニケーション能力と調整力です。価値観や経済状況の異なる区分所有者間の意見をまとめ、管理組合として最適な意思決定を導くためには、粘り強い対話と、中立公正な立場からのファシリテーションが不可欠です。
国や自治体が目指す「良質なマンションストックの形成」や「管理不全の予防」といった目標の達成には、現場の最前線で活動するマンション管理士の「課題解決型」の支援が鍵となります。管理組合の自主性を尊重しつつも、専門家として積極的に課題解決に関与し、マンションの適正な管理運営、さらには再生までも視野に入れた長期的な視点でのサポートを行うことが、これからのマンション管理士に強く求められる役割と言えるでしょう。
