神奈川県逗子市のマンション管理実態と管理士が果たすべき役割〜現状・課題・適正化への道筋〜

はじめに
逗子市では、分譲マンションの老朽化が深刻な社会課題となりつつあります。令和5年(2023年)時点で、市内には約137棟・5,466戸の分譲マンションが存在しており、そのうち約60%が築30年以上の高経年マンションです。今後10年で、さらに築年数が進んだマンションが増加し、「築40年以上」が約40%を占めることが予測されています。
マンションの高経年化は、建物の老朽化や耐震性の低下に加え、管理組合の運営不全や区分所有者の高齢化といった複合的な課題をもたらします。適切な修繕や管理が行われない場合、住環境の悪化や資産価値の下落を招き、市全体の景観・防災面にも悪影響を及ぼす恐れがあります。
こうした背景を受け、逗子市は2024年度(令和6年度)に「逗子市マンション管理適正化推進計画」を策定しました。本計画は、国の「マンション管理適正化法」の改正に基づき、市域内の分譲マンションにおける管理水準の向上と、住民の安心・安全な暮らしの実現を目的としています。
本記事では、逗子市における分譲マンションの現状や課題、そして管理士が果たすべき役割について解説します。現場で活動するマンション管理士が、逗子市の取り組みに即した適切な支援を行うための実践的な指針を提供します。
2. 市内分譲マンションの実態
逗子市のマンションストック状況
逗子市内の分譲マンションは、主に駅周辺の市街地や、海岸線に沿ったエリアに立地しており、その多くが中小規模の単棟型マンションです。2023年度の調査によると、市内のマンションの分布状況は以下の通りです。
- 総棟数:137棟
- 総戸数:5,466戸
- 築30年以上のマンション:83棟(約60.6%)
- 築40年以上のマンション:54棟(約39.4%)
また、地域別に見ると「逗子1丁目」「逗子5丁目」「桜山8丁目」など、駅周辺の住宅地に多くのマンションが集中しています。一方で、郊外や沿岸部にも一定数のマンションが分布しており、エリアによっては交通利便性や防災面で課題を抱える物件も散見されます。
建物構造としては、5階建て以下の低層マンションが約40%を占め、その多くが鉄筋コンクリート造(RC造)で建設されています。また、1970年代から1980年代に建設された団地型マンションも一定数存在しており、こうした物件は耐震補強や大規模修繕が喫緊の課題となっています。
アンケートから見る管理組合の現状
逗子市では、2023年度にマンション管理適正化推進計画を策定する段階で、個別の管理組合アンケートは未実施の状況です。そのため、詳細なデータは示されていないものの、市は「全国的な傾向」や「市内の高経年マンションの状況」を踏まえ、以下のような実態が推測されるとしています。
- 役員のなり手不足や理事会の運営停滞
- 長期間、総会や理事会が未開催となっている組合の存在
- 管理規約の未整備や、実態に即した改定が行われていないケース
特に、高経年マンションでは、組合役員の高齢化が進んでおり、管理不全リスクの高い「要支援マンション」の増加が懸念されています。
今後、逗子市はアンケートや現地調査を通じて、より詳細な管理実態の把握を進める予定です。マンション管理士としては、こうした背景を踏まえ、今後の支援活動に向けて「潜在的な管理不全リスク」を意識したアプローチが重要となります。
3. 長期修繕計画と資金計画の実態
長期修繕計画の策定率
逗子市のマンション管理適正化推進計画によると、市内の高経年マンションにおいて長期修繕計画が未策定、あるいは30年未満の短期的な計画にとどまっているケースが多数存在するとされています。
逗子市は国のガイドラインに準拠し、30年以上の長期修繕計画の策定を推奨していますが、築40年以上のマンションが約4割を占める現状から見ても、計画未策定・未更新の物件が一定数存在することは確実です。
高経年マンションの多くは、建物や設備の老朽化が進行しており、適切な時期に大規模修繕や設備更新を行わない場合、居住者の安全性や建物の資産価値に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、逗子市は今後、「管理計画認定制度」を通じて、長期修繕計画の策定率向上に取り組む方針を明示しています。マンション管理士としては、こうした方針に合わせ、現状分析から策定支援、改訂提案まで、各組合に寄り添ったアドバイスが求められます。
修繕積立金の計画・運用の課題
長期修繕計画と密接に関連するのが、修繕積立金の不足問題です。逗子市内では、国の標準的な積立額に達していない組合が多く、今後予定されている大規模修繕に向けた資金準備が十分ではないケースが散見されています。
主な課題は以下のとおりです。
- 古い修繕計画を基に設定された低水準の積立額が継続されている
- 物価上昇や資材費高騰を反映しないまま放置された積立額
- 役員不足や合意形成の困難さから、積立金の見直しが進まない組合がある
このままでは、一時金徴収や借入金への依存といった、組合員への大きな負担を伴う対応を強いられる事態も懸念されます。
マンション管理士としては、長期修繕計画の策定支援に加え、修繕積立金の現状診断と適正水準への見直し提案、組合員への丁寧な説明支援など、資金面での包括的なアドバイザリー業務が求められています。
4. 顕在化する管理不全リスクと要支援マンション
活動停滞、管理不在組合の現状
逗子市は、築年数が進んだマンションにおいて、管理組合の運営停滞や管理不全リスクが高まっている状況を指摘しています。特に、1970年代から1980年代に建設された団地型マンションや中小規模のマンションで、その傾向が強まっています。
管理不全リスクが高い組合の特徴としては、以下が挙げられます。
- 理事会や総会が長期間開催されていない
- 理事長・理事のなり手が不足している
- 管理規約の未整備・未改定
- 長期修繕計画の未策定や積立金不足
このような管理組合は、市が定義する「要支援マンション」として、重点的な支援の対象となります。
逗子市は、今後、管理不全の兆候が見られるマンションを早期に把握し、必要に応じて管理士などの専門家を派遣する仕組みを構築する予定です。
マンション管理士にとっては、これらの「要支援マンション」への早期介入と、管理組合運営の正常化支援、修繕計画・資金計画の立て直しなど、現場主導型のハンズオン支援が今後一層重要となるでしょう。
5. 逗子市が用意する支援策と管理士の介入ポイント
逗子市は、2024年度に策定した「マンション管理適正化推進計画」の中で、管理組合に対する各種支援策を提示しています。これにより、市内の分譲マンションの管理水準の向上や、管理不全リスクの未然防止を図る方針です。マンション管理士は、これらの施策に即して、現場での支援や指導を行う重要な役割を担います。
管理計画認定制度の導入
逗子市は、今後「管理計画認定制度」の導入を予定しています。この制度は、国が定めた管理の基本方針に準じて、適正な管理が行われているマンションを認定する仕組みであり、組合の管理水準を可視化する役割を果たします。
認定にあたっては、以下の要素がチェックポイントとなります。
- 管理者や監事の選任状況
- 定期的な総会・理事会の開催状況
- 長期修繕計画(30年以上)の策定状況
- 修繕積立金の適正水準での確保
認定を受けたマンションは、資産価値の維持や、外部への信用向上にもつながります。管理士は、この認定取得を目指す組合に対して、現状の課題把握から、必要な計画策定・体制強化の支援までを行うことが求められます。
外部アドバイザー派遣制度の活用
逗子市は、今後、マンション管理士等の専門家を管理組合に派遣する「アドバイザー派遣制度」の創設を予定しています。
この制度により、管理組合の運営が停滞している、あるいは管理不全リスクが高いと判断されたマンションに対し、管理士などの外部支援者が派遣され、直接的な支援・指導を行います。
派遣された管理士は、以下の支援に取り組みます。
- 長期修繕計画・資金計画の整備
- 総会・理事会運営のアドバイス
- 管理規約や細則の見直し支援
- 役員のなり手不足・合意形成の課題解決
市内には、築40年以上のマンションが増加しており、特に役員の高齢化や担い手不足が深刻なエリアにおいては、こうした制度の活用ニーズが高まると予測されます。
6. マンション管理士が果たすべき現場での役割
逗子市が進める支援施策において、マンション管理士は、現場実務における専門家として次のような重要な役割を担います。
組合の「伴走型」支援者
管理士は、日常的に発生する組合の課題に対し、中長期的な伴走支援を行う役割が期待されます。特に、組合役員が高齢化している、または意思決定が停滞している管理組合に対しては、管理士がリーダーシップを発揮し、合意形成のサポートや、運営体制の立て直し支援を担います。
計画・資金計画の策定支援
逗子市が推進する認定制度を踏まえ、長期修繕計画の策定・見直し支援や、積立金水準の適正化支援が、今後の中心的な支援業務となります。計画未策定や資金不足が顕在化しているマンションに対しては、管理士が主導して、現状分析から改善案の提示、総会での説明支援までを行うことが求められます。
規約整備・規範の明確化支援
高経年マンションでは、管理規約が古く、実態に合わないまま運用されているケースが多く見られます。管理士は、こうした管理規約や使用細則の現代化支援を行い、組合のルール整備を通じて、より健全な組合運営を促します。
逗子市においては、これからの10年で築40年以上のマンションがさらに増加する見込みです。こうした背景を踏まえ、「管理士が現場に深く関与し、管理不全の未然防止・改善支援を行う」体制づくりが不可欠となります。
